第二部
 
第一話 衛星都市カーム
 
クラウドたちの星を救うための世界を旅する冒険はこうして始まった。それは辛く厳しいものではあるが、我々も眼を背けず、彼らの冒険の物語を見守ることとしよう。
ミッドガルを出たクラウドたちはワゴン車で南東へ70キロほど離れたカームへ到着した。
ここはミッドガルの衛星都市にあたり、小さいながらもベッドタウンとして機能していた。
クラウドたち一行は今日、ここのホテルに泊まり、ゆっくりとクラウドの話を聞く予定だった。
カームの中でも五つ星のホテル、『エンパイアステートカーム』は緑の庭園が美しいホテルだった。
チェックインの手続きを済ませ、部屋に案内されると、クラウドはボーイにチップを渡して全員の飲み物を注文した。これから長くなる話に備えての気配りだった。ティファは落ち着きなくクラウドの横顔を見ていた。
一同がめいめいに着席して落ち着くと、最初に口をきいたのはバレットだった。
黒い革張の手帳とペンを出してきてクラウドの一番手前に腰掛けた。
「さあ、みんな話してもらうぜ。お前の知っていること。この星の事、セフィロスの事をだ」
クラウドはうなずいた。
「まず何から話せばいいんだ?」
「そうだな、まずはお前とセフィロスとの関係だ」
「俺はセフィロスに憧れてソルジャーになったんだ。セフィロスは俺より2つ年上で、もうローティーンの頃からソルジャーだったらしい。ミッドガル生まれのミッドガル育ち、父親は神羅の科学技術開発部門の前責任者、ドクターガスト。誕生日は3月25日のО型。
セフィロスはあまり自分の事は話さなかったから、俺が知ってるセフィロスの個人情報はこのくらいだな…」
「外見的特長は?銀色の長い髪に黒いコートと聞いているが」
バレットが質問する。
「…そうだな、ものすごく大雑把な表現をするとそうなるな。とにかく人目を引いていたな」
クラウドは手を後ろに組んで遠い目をした。
「なるほど、会ったこともない俺たちが出くわしてもすぐそれと分かるくらいなんだな」
「そうだ」
突然ティファが、
「質問を変えましょう。1年前の事故の事を詳しく教えて」
と、間に入った。
「そうだな、1年前、俺はソルジャーのファーストに昇格された。だけどいざ赴任してみると、実際は地味な仕事ばかりだ。大きな戦争が終わり、俺たちに与えられた仕事はもっぱら敵対勢力の残党狩りだ。テロリストやレジスタンスの始末だな。ソルジャーは人殺しの仕事だと分かっていても憂鬱なもんだ」
クラウドは腕組みをしてさっきと同じ遠い目をしていた。
「俺は31歳だった。あれは俺とティファの生まれ故郷のニブルヘイムでの任務だった。故郷に凱旋できると思っていた俺ははりきっていた」
 
 第二話 破滅の歌
(以下,青文字は過去の解説)
クラウドたちを乗せた車は雨の中、ニブルヘイムに向かっていた。
山の天気は変わりやすい。さっきまで晴れていたのに突然雨が降り出したり、またやんだり。
気温の変化も激しく、いよいよニブルヘイムが近づいていることが分かった。
窓ガラスに水滴がいくつもいくつも模様のように張り付いては消えていく。
ニブルヘイムはニブル山という裸山の山脈の麓にある片田舎の町だった。主な産業は農業であるが、三十年少し前にニブル山で豊富な魔晄の鉱脈が発見され、ニブル山の谷あいに魔晄炉が建設された。同時に環境もよいことから、ミッドガルの金持ちなどの保養地にもなっていた。
そのニブル山が車窓から見えたとき、クラウドは笑顔で後部座席を振り返った。
「楽しみだなぁ!!」
車内にはクラウドの他に二人の一般兵と一人の将校、そしてもう一人、席の上で膝を抱えて座った女性がうたた寝している。彼女はクラウドの声で目が覚めてしまったようだ。黒いロングコートに膝が完全に露出した短いスカートの彼女の美しさを表現する言葉があるとするならば、それはこの世の言葉ではなく、天上の言葉に違いない。この世界で、彼女ほど美の神に祝福されたものなど存在しないだろう。まず、彼女の瞳は、まるで発光しているようなグリーンがかったさんご礁の海色、長いまつげはやわらかく、それでいて大胆にカールしている。肌は色白だが優しげなピンク色で、口元は真っ赤なグロスの口紅がよく似合っていた。そして彼女自身もきっと自慢にしているであろうその髪は彼女の身長とほぼ同じくらいに長く、太陽の光を受けて反射して輝く雪のような白銀色で、絹の川のようにゆっくりと流れ、まるで繭のように彼女の体を覆っていた。しかし美しいものの傍らには残酷なオブジェクトが似合う、というデカダンス思想があるのだろうか、彼女の傍らには刃渡りだけでも二メートルはある刀が鈍い発光とともに横たわっていた。刀にははっきりと『正宗』の文字の銘が焼き付けられている。

 
「まさかそいつがセフィロスか?」
クラウドの話の途中でバレットが声を上げた。
「…そう、セフィロスだ」
クラウドが言った。
「まさか女だったなんて…」
「セフィロスは外見が人目をひく部分以外は、一見するとごく普通の大人しそうな女性だ。とてもじゃないが人やモンスターを殺めるようなふうには見えない。それがセフィロスの恐ろしさでもある」
「なるほど。敵対したものは警戒を解いてしまうわけだ。そこを攻撃するわけだ。…続けてくれ」
メモを忙しく取りながらバレットはクラウドに続きを促した。
 

「少し静かにしてて」
セフィロスが口を利いたが、その声は不思議な声だった。澄み切った冬の空のように清らかで、それでいて、どこか肌寒い。
「新しいマテリアが支給されたんだ。早く試してみようと思ってさ」
「…子供みたいな人ね」
「ていうかさ、今回の任務を教えてくれよ」
「出発前に確認したでしょう?」
「よく聞いてなかった」
「あきれたわ。まぁいいでしょう。今回の任務はいつもとは違うのよ。老朽化した魔晄炉の動作不良の調査ね。おまけに強暴な動物も発生しているみたいだからそれらを排除して原因を調査。場所はニブルヘイムよ」
「やっぱりニブルヘイムなんだ?そこは俺の地元なんだぜ」
クラウドがぱっと明るい顔をしたそのとき、ドスン、という衝撃が車に走った。
「大変です!なにかが車に!」
運転席の兵士が叫んだ。
「モンスターかしらね」
セフィロスは大きく伸びをして立ち上がると、正宗を手に取って車を降りた。クラウドもセフィロスの後に続いた。
しかし、クラウドはセフィロスと一緒に車を降りたことを少し後悔していた。
ニブルドラゴン。体長五メートルはある。
ドラゴンは鈍いながらもゆっくりとこちらを向いて、セフィロスのほうに炎を吐いた。まるで火炎放射器である。しかしセフィロスはよけようともしない。動きもしない。クラウドが目を凝らしてみると、セフィロスには全くドラゴンの炎が効いていない。
セフィロスは無表情で二度正宗でドラゴンを斬りつけた。そう、たった二度、大して力を入れているわけではなかったのに、ドラゴンはあっさりと倒れた。
「バカみたい。さっさと行くわよ」
セフィロスはクラウドのほうを一瞥すると、車に戻った。

 
「セフィロスの強さは尋常じゃない。世間で知られているどんなうわさよりも強かった」
クラウドは言った。
「で、お前はどう活躍してたんだ?」
エアリスがクラウドの顔を指差して言った。
「俺か?俺はセフィロスのやってることをただ見ているだけだった」
クラウドは頭をかいた。

 
クラウドたちはようやく町の入り口に到達した。町並みはクラウドがいた十四年前とさほど変わることがなかった。
「ね、どんな気分なの?自分の地元って」
セフィロスはクラウドの目を覗き込んで言った。
「…うーん、急に言われても、よくわかんないなぁ。あんまり変わんないなっていうのが正直な感想だよ」
「…そう。私には故郷とかそういうものがないからよく分からないわ」
「そっか。でも生まれた場所とかは?」
「私はね、ミッドガル生まれのミッドガル育ち。この仕事を始めるまで外の世界なんて行ったことがなかったのよ」
セフィロスはクスクスと笑った。
「両親は?」
「パパはガスト博士。科学者だったわ。ママはジェノバって言う名前で、私が生まれてすぐに亡くなったって教えてもらったのよ。だから今私はひとりぼっちなの」
セフィロスが視線の居場所をなくしてうつむいた。
「ごめん、まずいこと聞いた」
クラウドが声がかけた。
「いいの。ほんとのことだから」
クラウドが次にかけるべき言葉を考えていると、
「平気よ。行きましょう」
セフィロスは微笑んで歩き出した。
 

「ちょっと待ってくれ。セフィロスの言うジェノバって言うのは、あの神羅ビルに安置してあった首無の人形だな」
バレットが質問した。
「分からない。ただジェノバという名前はよくある名前じゃなかったから、俺も鮮烈に覚えている」
と、クラウド。
 
クラウドたちがニブルヘイムの町に入ったとき、昼間だというのに町はひっそりしていた。
クラウドは村に入ると,すぐに自宅に向かった。
家は母子家庭だったがそれなりに裕福で,1人息子のクラウドがミッドガルに出て行った後は,母一人で住んでいた。クラウドの母はとても美しい人だったが,少し精神薄弱なところがあった。母はクラウドが帰ってきたことをとても喜んでくれた。母はクラウドに恋人はできたのかと聞いた。クラウドはそんなものはいない,と言う。すると母は言った。
「クラウドには少しお姉さんであなたをぐいぐい引っ張るような人がいいと思うのよ」
「そんなの興味ない」
クラウドは言った。
クラウドは幼馴染のティファの家にも訪ねていったが,留守だった。
町の文化センターには知らない初老の男がいた。年の割りにがっちりした体格と,日焼けした顔が健康的に見える。
クラウドは見覚えがなかったので,町の人間でない,と思った。
「私はザンカン。格闘家だ」
と,クラウドに一方的に握手を求めてきた。
「格闘家,ですか」
「世界中を旅して格闘術を教えて回っている。この町ではティファと言う女性が助手をつとめてくれた。彼女は筋がいい」
 
翌朝,クラウドとセフィロスは神羅兵を連れてニブルヘイムの町外れの魔晄炉へ行く事になった。
そしてその案内役は,ティファ。
クラウドとティファはそのとき久しぶりに再会したのだが,お互い言葉少なだった。
出発の朝,ティファの父親はいつまでもティファの事を心配してやきもきしていた。
「頼む,セフィロス。娘にもしもの事があったら…」
「大丈夫よ」
セフィロスは抑揚のない声で言った。
「大丈夫よ,お父さん。強いソルジャーが2人もいるもん」
ティファも言った。
そこへカメラを持った男性がやって来た。
「あのー,セフィロスさん。写真を一枚撮らせてくれませんかね。ティファちゃんからも頼んでよ」
ティファはクラウドの方を向いた。クラウドはセフィロスを見る。
セフィロスはつまらなそうな顔でクラウドの横に立つ。
写真を撮った男性は,
「はい,どうもありがとうございました!」
と頭を下げた。
セフィロスは居心地悪そうに二人から離れると,ニブル山の魔晄炉に向かって歩き始めた。
ティファを先頭にセフィロス,クラウド,2人の一般兵と1人の将校が続く。
「この先は洞窟が蟻の巣のように入り組んでいるの」
ティファが言った。
ニブル山の岩肌は不思議な色をしている。
「変わった色だな」
クラウドが言った。
「これ,魔晄の色よ」
セフィロスが言った。
「この辺り一体の山は魔晄エネルギーが豊富なのよ。だからきっと魔晄炉が作られたのね」
いくつかの洞窟を抜けると,小さな泉の前に来た。
「ここは?」
クラウドが聞くとセフィロスは,
「多分魔晄の泉ね,ほら,これ見て」
泉の中央に結晶のようなものがある。
「マテリアよ。天然のマテリアなんてそうそう見られる機会なんてないでしょ?」
「そういえば,どうしてマテリアを持っていると魔法が使えるんだ?」
「貴方,そんなことも知らずにソルジャーになったの?…まぁ,いいわ。マテリアは古代種の知恵が封じ込まれてる,って言われてる。この星を動かす知識や能力,それらが星と私たちと結び付け,魔法が使えるの」
「不思議な力だな」
「そういえば昔ある科学者の先生が,不思議な力とか魔法なんかありえない,って憤慨していたわ」
「誰だ?」
「今の科学技術部門の部長の宝条。神経質でコンプレックスの塊でバカみたいな人」
 
魔晄炉はニブル山の真ん中にあった。
「着いたわ。随分遠回りしたけど」
ティファが言った。
「ティファはここで待っていろ」
クラウドが言うと,ティファは,
「私も中へ入ってはいけないの?」
と聞いた。
セフィロスは,
「ごめんなさいね。この中は会社の秘密でいっぱいなの。一般人の貴方を中に入れることはできないのよ」
と,言い,将校に,
「このお嬢さんをお守りしてね」
と声を掛け,クラウドを連れて魔晄炉に入った。
「んもぅ!ちゃんと守ってね!」
ティファは憤慨していた。
 
魔晄炉の中にはたくさんの培養ポッドがあった。奥にはジェノバ,と書かれたドアがあったが,鍵が掛かっていた。
セフィロスは培養ポッドを繋ぐパイプの一つに目を付けて,
「異常動作の原因はこれね。クラウド,なんとかならない?」
クラウドは器用な手つきでバルブを閉めて動作不良を修理した。
「一体何が起こったの?」
セフィロスは背伸びして培養ポッドの中を覗き込んだ。
「なるほど…ね。そういうことだったの。宝条博士らしいわね」
「どうしたんだ?」
「ね,クラウド,魔晄を凝縮するとマテリアができることは話したわね」
「うん」
「この装置はね,魔晄を冷却して凝縮する装置みたいなのよ。つまりマテリアの装置ね。だけど宝条はこの中に何かを入れたのよ」
「何かって?」
「覗いてごらんなさい」
言われるままにクラウドも覗く,培養液の中に人間のような鬼のようなものがぷかぷか浮かんでいる。
「!!」
「貴方達普通のソルジャーは魔晄を浴びて普通の人間とは違うけれど人間なのよ。だけどこの中のは?まるで化け物だけど,人間の形をしているわ」
「それじゃ,これはモンスターを作っているっていうわけか」
「魔晄の力を使って人工的にモンスターを作っているのね。明らかに普通のソルジャーの違うやり方ね」
「普通のソルジャーって,セフィロスは違うのか?」
クラウドの質問にセフィロスは口をぽかんとあけて目を丸くした。しかしその目には明らかに動揺の色があった。
「まさかとは思うけれど,私も“これ”と同じなの?私もこうして生み出されたの?私もモンスターと一緒だと言うの?」
セフィロスの華奢な肩は震えていた。
「そんなはずはないだろ」
クラウドはなだめようとした。
「セフィロスは美人なんだ。こんな気持ち悪いモンスターと一緒のわけがない」
「そうじゃないのよ!!」
セフィロスは完全に正気を失っていた。
「子供の頃,私は自分の事を普通だと思っていた。だけど大人になるに連れてなんとなく気付いていたの。もしかして私は全然普通じゃないかもしれないって。だけどこんなことだとは思わなかったわ」
クラウドは震えるセフィロスも心配だったが,それよりも神羅が人工的にモンスターを作っていた事のほうがショックだった。
その後,すっかり弱ってしまったセフィロスは山を降りて街へ戻った後,急に姿を消した。
セフィロスの姿が見つかったのはそれからしばらくして,町の中にある『神羅屋敷』と呼ばれる建物の中だった。その昔,その建物は神羅の施設だったのだ。今は空き家になっている。
セフィロスは神羅屋敷の地下の書斎にいた。
何かに取り付かれたように本を読み漁っていた。
「2000年前の地層から現れた仮死状態の生物。その生物をガスト博士は『ジェノバ』と命名。ジェノバを古代種と断定。…その後ジェノバプロジェクト承認」
そこまで読んでセフィロスは,
「私のママの名前はジェノバ,そしてジェノバ・プロジェクト。これは偶然なの?」
セフィロスはとても悩んでいた。
クラウドは声を掛けられる状況じゃないなと判断して部屋を出た。
とはいえ,寝食を忘れて閉じこもってしまったセフィロスの事も心配だったのでその神羅屋敷に寝泊りすることを決めた。
使われていない割には神羅屋敷はとても清潔で電気も水道も生きていた。
朝,クラウドが目覚めると,書斎のドアが開いている。
何かあったのだろうかとクラウドは中へと入った。
やつれたセフィロスは椅子に座って呆然としていた。
クラウドが強く体を揺さぶると,セフィロスははっとして,
「あら貴方なの」
と言った。
しかし目の焦点が合っていない。
「なんだか,色んな事知りすぎたみたい」
「?」
「この本によると,昔この星にはセトラっていう種族がいたそうよ。旅をしては星を開墾してまた旅を続ける。辛く厳しいたびを続けたら約束の地を見つけて幸福を得る。だけど別の種族が現れたのね。その人達は旅なんかしないで定住して生きる道を選んだそうよ。…昔,この星を空からとんでもない災厄が襲ったとき,多くのセトラの犠牲で星は護られた。だけどセトラはもう絶滅してしまってね,その後数を増やしたのが貴方達の祖先」
クラウドはバカではなかったからなんとなく先の展開が推察できた。しかし気味が悪かったからあまり考えたくなかった。
「悪いけど,何を言っているのか…」
「あら,分からない?2000年前の地層から発見された古代種の名前がジェノバ,そして私のママの名前がジェノバ,それからジェノバプロジェクトと言う言葉」
クラウドはもうそれ以上聞きたいとは思わなかった。
「ジェノバプロジェクトは,古代種の能力を持った人間を作ること。そして作られたのが私」
「しかし当時の科学技術でそんなこと可能だったのか?」
ここ数年クローン技術は発達したが,30年以上前にそんな技術があったとはクラウドには信じられなかった。
「天才と呼ばれた科学者のパパならできたことだわ」
セフィロスは本を片付けるとよろよろと立った。
「おい,どこへ行くんだ?」
「…ママに会わなきゃ。ママが呼んでる」
セフィロスは口の中でブツブツ呟いて書斎を出て行った。
クラウドは混乱していた。
頭の中でさっきの話をまとめようと試みるが,うまくまとまらない。
それよりもセフィロスが行った先が気になった。
神羅屋敷を出ると,クラウドは立ち尽くした。
セフィロスが町中の人間を殺して回っていた。逃げ惑う人間を刀で斬り捨てる。たとえ子供だろうが女だろうが関係なかった。
クラウドの目の前でセフィロスは少年を斬り捨てると,ゆっくりとこちらを振り返った。
緑の瞳はもうどこを見ている,といったふうではなく,ただらんらんと狂気の色が輝いていた。そしてまた瀬をむけるとニブル山に向かって歩いていった。
クラウドが後を追おうとすると,
あの格闘家のザンカンが袖をつかんだ。
「あんたか。あんたは無事だったんだな!頼む,生存しているものがいたら救助するのを手伝ってくれ!」
「そうだ,お袋!」
クラウドは自宅へ向かった。ドアを開けて中へ入ったが,すぐに戻ってきた。首を振る。
「…どうしてこんなことに」
クラウドはしばらく動けなかったが,ザンカンに言われたように生存者の救出に当たった。
といっても生存者はほとんどいなかったし,いたとしてもひどい怪我を負っていた。
負傷者や死体は町の公民館に集められた。
隣町の病院へ連絡をしてからクラウドはその場をいったんザンカンに預け,ニブル山へ急いだ。
ニブル山の魔晄炉の前でティファが冷たくなった父親に取りすがって泣いていた。
「セフィロスがやったのね。セフィロス,神羅,魔晄炉,ソルジャー,全部大嫌い!」
セフィロスはジェノバのドアをこじ開けようとしている。
そこへティファが現れ,セフィロスが置いた刀を拾い上げ,
「よくもお父さんを!町の人を!」
と,セフィロスに向かって走っていく。
セフィロスは簡単に刀を片手で取ると,すっと刀そのものを掠め取り,握りなおすとティファを袈裟斬りした。ここまでの時間は約2秒。
ティファの体は吹っ飛び,階段の上を転がり落ちた。
セフィロスはふん,と口の端を上げて笑うと,ジェノバの部屋へ入った。
遅れてクラウドが入ってきた。
倒れたティファを安全な場所へ運んだ。
「遅いよ。クラウド,ピンチの時は助けてくれるって言ったのに…」
「ごめん。本当にごめん」
クラウドはティファを横にならせると,携帯電話で救急車を呼び,奥の部屋へセフィロスを追いかける。
セフィロスはこちらに背中を向けて立っていた。彼女の目の前には天使を模った金属製の模型がある。
「セフィロス!よくも俺の家族や友達をやってくれたな」
「ママ,またあの人達が来たわよ。ママには特別な力があるから,この星の支配者になれるはずだっのに,それなのに何のとりえもない人間達がママからこの星を奪っていったのね。でももう大丈夫。私が来たから。私がママの代わりにこの星をママの為に取り返してあげるんだから」
セフィロスは模型に手をかけた。模型が割れ,ピンク色の肌に覆われた美しい女性が冷凍保存されて入っていた。
「セフィロス,信じてたのに…。いやもう,あんたは俺の知っているセフィロスじゃない」
クラウドは剣を取った。
「いいの?後悔する事になるわよ」
セフィロスはまた,口の端をあげた。
「少なくとも何もしないで逃げるよりはましだ」
クラウドは言い返した。

 
 
「…この話はここで終わりなんだ」
クラウドがため息をついてコーヒーカップを持った。
「え…?」
バレットがペンを持つ手を止めた。
「終わりって…その後どうなったんだ?」
「覚えていない。ただ,実力から言って俺がセフィロスを斃せたという事はありえない。公式の発表ではセフィロスは死んだって事になってるけど,本当の事は誰にも分からない…」
「そういえばあのときのジェノバは?」
ティファが言った。
「多分ニブルヘイムから神羅のビルに運んだのがあれだろう」
「…しかし神羅のビルからはなくなっていたぜ?」
と,エアリスは思い出す。
「簡単だよ」
バレットが言った。
「俺達が最初あの部屋に入っていたときにはジェノバはまだあそこにあったんだ。次に俺達が見たときはなくなっていた。そして社長は正宗で殺されている。犯人はセフィロスだ。セフィロスがジェノバを持ち出したのさ」
「理由は?」
エアリスに突っ込まれて,
「それが分かれば苦労はしない。ただジェノバの体を使って何かとんでもない悪事を考えているんだろう」
 
 第三話 ミドガルズオルム
 
 翌朝,カームを出発した一同は,大陸の西側へと進んでいた。
獣のレッド]V以外は全員普通車の運転免許を持っているので,交代に運転することにした。
途中でガソリンスタンドを併設した大きなドライブインに立ち寄る。
「レギュラー,満タンで」
そういってクラウドは車を降りた。
「お客さん,この先の湿地帯を越えるのですか?」
店番の老人が声を掛けた。
「ああ,そうだが」
「だったらこのタイヤじゃ危ないですよ。この先の湿地帯にはミドガルズオルムという大蛇がいるのです。身の丈10メートルはありますよ。これに襲われたらひとたまりもありません。是非,当店のスペシャルエクスペリエンスタイヤをお求め下さい。これがあれば山道もも雪道も湿地もどんなオフロードもスイスイです」
「いくらだ」
クラウドが聞くと,
「4本セットで7500ギルです」
とんでもない,法外だ。
クラウドが眉を上げたのを合図にエアリスが片手で老人の襟首を無言でつかんで持ち上げる。
「うひー,じゃ5000ギルでいいです」
クラウドはまだ眉を上げている。
エアリスは襟首をつかんだままだ。
「さ,3000ギルで…」
ようやくクラウドがあごをしゃくった。
エアリスは合図を受けて老人を下ろした。
財布を預かるティファがガソリンスタンドに3000ギルを支払った。
タイヤを取り付けてもらっている間,クラウドは自販機で紙コップのホットコーヒーを買った。
「クラウド」
ティファが声を掛けた。
「何だ」
「あのね,ちょっと聞きたいの。あのときのことなんだけど,セフィロスに斬られた私はどうだった?」
「どうって…もしかしたら助からないかと思ってた。悲しかったよ」
「…」
タイヤを装着して,ワゴンは再び動き出した。
目の前にあるのは緑のよどんだ湿地帯。
運転席にはバレット。
「一気に抜けるぜ」
スペシャルエクスペリエンスタイヤの性能は素晴らしかった。
本来ならばズボズボと動きをとられる湿地の上をまるでアスファルトのようにワゴン車は進んでいった。
「…しかしそれらしい蛇なんていないな」
バレットがフロントガラスから目を凝らしながら言った。
「ねぇ,あれ」
ティファが窓から外を指差した。
十メートルは余裕にある蛇が大木によって串刺しになっていた。
「これはセフィロスがやったのか?」
クラウドが呟く。
「こんなことやっちゃうような姉ちゃんが俺たちの敵になるって!?」
エアリスが言う。
 
 第四話 ミスリルマインの色
 
 この辺りにはミスリルという鉱物が取れる。硬くて丈夫なので武器や防具としてももちいられる。
峠の岩肌がミスリルの色だ。
峠のてっぺんの喫茶店で休憩しようと言うことになって,車を止めた。
お茶を飲んでいると,隣のテーブルに見覚えのある顔がいた。
スキンヘッズにサングラスのトレードマークの男,ルードだ。その隣にはツォンではない女性のタークスがいる。
ルードも気がついたらしく,しばしクラウドとルードはにらみ合った。
「何か用か」
先に声を掛けたのはクラウド。
「…俺を覚えているか」
「さあな。どこの人攫いだったか」
「悪意に満ちた言い方だな。しかし今はそれだけではない…」
ルードがそこまで言いかけて黙ってしまった。すると,隣に座っていた金髪の女性タークスが横へ来て喋りだした。
「ルード先輩は口下手なんだから」
と言う。
「あのね,私はイリーナ。あんた達にやられたお陰でレノ先輩は首を痛めて人手不足。私はその代わりの欠員補充で採用されたのよ。私たちの今の仕事はセフィロスを追うこと。それとあんた達の邪魔をすることよ」
得意げにべらべら喋るイリーナを一同は目を丸くして聞いていた。
「…イリーナさん,喋り過ぎですわよ」
外から気配もなく入ってきたのは,タークスの主任,ツォンだった。
「すみません,ツォンさん」
普段から同じようなことで怒られているのかイリーナは反射的に頭を下げた。
「私たちの仕事の内容をこの人達に教えてどうするのかしらね。貴方達には別の仕事があったでしょう?」
「あ,そうでした。それでは私はルード先輩と一緒にジュノンの港に現れたと通報があったセフィロスを追いかけます!!」
「…イリーナさん。私の話,聞こえていらっしゃる?」
ツォンの冷ややかな視線にようやく気付いてイリーナは慌てた。
「さあお行きなさい。必ずあの女を見つけるのよ」
「はいっ」
イリーナとルードは我先にと喫茶店を出て行った。
「お久しぶりね。皆さん。エアリス,セフィロスが現れた以上,当分貴方は自由の身ですからね」
「フンッ,言われなくたって元から俺は自由だよ。何が言いたいんだ」
「…しばらく会えなくなりますけど,ごきげんよう」
「ああ,そうだな」
「それでは皆さん,くれぐれも私達の邪魔はご遠慮くださいね」
ツォンはしおらしく頭を下げると,喫茶店を出て行った。
「…ジュノンの港っていったわよね」
とティファ。
一同はうなずきあった。
 
 第五話 マテリアハンター
 
 クラウドたちがミスリルマインを抜けたところの森で休憩していると,突然見ず知らずの少女忍者が攻撃してきた。
黒髪のショートカットで,全体的に健康的で清潔感のあるかわいらしさがあったが,一体全体どんな理由でクラウドに突っ込んできたのか。
しかし相手は元ソルジャークラウド,怪我をさせない程度に力の差を見せ付けてやると,少女は悔しそうに地団太を踏んだ。
「あー気に入らない!気に入らない!おいっ,もう一回勝負しろ!」
「断る」
「ふふん,アタシの強さにびびったね」
この少女は何も分かっていない。面倒くさかったのでクラウドも,
「まあそんなところだ」
と適当に話を合わせておいた。
「そーでしょ,そーでしょ!アタシ知ってるよ,あんたらお尋ね者でしょ!神羅に追われてるよね。どお?アタシを連れて行かない?」
「めんどくさい」
クラウドが車に乗った。
「あー,無視したな。無視したな。ええい,何が何でも付いて行ってやるからね!」
少女は強引にワゴンのスライドドアを開け,乗り込んできた。
そして,
「アタシはユフィ!ウータイの忍者だよ。よろしくね!」
と誰も聞いていないのに自己紹介した。
 
 第六話 海を越えて
 
 ジュノンは古い港町で,かつてはにぎやかな漁港だった。しかし車窓から見るジュノンの町はすっかりさびれていた。
干物を干している老婆に話を聞くことにした。バレットが車を降りて老婆に向かう。
「おばあちゃん,こんにちは」
「はい,こんにちは」
「ここは素朴でいい町ですね」
「そうですかの。でもここはもうさびれてしもうて。昔はもっと華やかだったんじゃ」
「何があったんですか」
「神羅が海底に魔晄炉をつくって,町の上に大きな街を作ってから魚がとれんようになってしもうてのぉ。困っておったんじゃがの,あるとき神羅の都市なんとか部長っていうのが来ての,上の神羅の街で町の若いモンをみんなまとめて雇ってやる,言うたんじゃ。それで若いモンはみんな上の街へ行ってしもての。うちの息子の家族も上の街に住んでるんじゃ」
 
上の街,エルジュノンは華やかな町で,対岸の大陸へ向かうフェリーも発着している。
今日はひっきりなしににぎやかな音楽がなっている。
「このお祭り騒ぎは?」
バレットがフェリーの発着の警備員に尋ねると,
「今日は神羅の新社長,ルーファウス神羅様の歓迎式典でございます。式典の後,お召しのカーゴフェリーで大陸を渡られます」
ルーファウスがフェリーに乗るということは,もうセフィロスは海を渡ったということになるのか。
「どうせなら」
クラウドが言った。
「ルーファウスの乗るフェリーに俺達も便乗させてもらおう」
ルーファウスのカーゴフェリーは積荷が始まっていた。
そこへ現れたのはあの銀色のステーションワゴンである。
車内には作業服姿のクラウドしかいない。
当然,警備の兵士が止めた。
運転席からクラウドが,
「社長の護衛の兵隊を輸送する車なんだ」
と,言ってかつての自分の社員証を見せた。
この神羅兵は末端なので,社員証をチェックして車の中を覗き込んで,
「これは失礼しました。お通り下さい」
と言った。
「何か変わった事はなかったか」
「いえ,あのね,少し前に真っ黒なコートを着た女が現れて,兵隊が何人か殺されたそうですよ。ちまたではそれがセフィロスじゃないかって話ですヨ。おまけに科学技術部部長の宝条って先生が急に長期休暇を申し出てゆくえふめいになったそうじゃありませんか」
「そうか,ありがとう」
「いえ,お気をつけて」
ワゴンはまんまとカーゴの中に入っていった。
フェリーの駐車場に停まると,無人のはずの後部座席の椅子の下から他の仲間達が出てきた。
 
二時間後,ルーファウスが式典後,パレードで警備されてフェリーのところまでやって来た。
一緒にいるのは治安維持部門部長,ハイデッカーだ。
ルーファウスは辺りを見回し,
「飛空艇はどうした」
「大陸間移動が可能な飛空艇はまだ準備中でして。もうしばらくお待ちくだされば。ガハハハハハ」
「空軍のゲルニカもか?」
「ガハハハハハ」
「笑ってごまかすのはやめろ。親父と私は違うのだぞ」
ルーファウスは強く睨んで乗船した。ハイデッカーも慌てて続いた。
 
 第七話 カーゴフェリー
 
 船内ではにぎやかな立食パーティが行われていた。
駐車場のワゴンから降りてきたのはユフィである。身軽な体を生かしてどこかへ走り去ると,自身は鶏の腿を口にくわえ,オードブルの大皿を抱えて戻ってきた。
大皿の上にはフライドチキンやサンドイッチ,フライものの盛り合わせ,ピザやソーセージ,刺身に巻き寿司まで載っている。
ワゴン車の後部座席に集まり,遅い昼食を摂る事にした。
「先に刺身とか寿司とか日持ちのしないものを食べよう。日持ちのするものは保存しておくんだ」
クラウドが言った。
クラウドはフルーツカクテルを覗き込んで,そういえばセフィロスはパイナップルが好物だったことを思い出していた。
一同はとりあえず満腹してにこにこ顔になった。
「ユフィ,お手柄だ」
気をよくしたユフィが,
「缶詰なんかもあったよ,とって来てあげようか」
と,再び外へ飛び出した。
「あまり無理はするな」
「へーき」
十分後,缶詰を抱えたユフィが不思議な顔をしてもどってきた。
「どうした」
「いや,ここの船員さんって結構仕事さぼりまくってるよね」
「なぜそう思う?」
「みんな船倉で昼寝してるんだもん」
「それはおかしい」
レッド]Vが言った。
「だって!本当にみんな寝てたんだ」
一同はユフィの言葉にはっとした。
「ユフィ,そこへ連れていってくれ」
「私も付いていこう」
クラウドはレッド]Vと共にユフィに案内を頼んだ。
ユフィが果物を盗んできた船倉の前に数人の船員が倒れている。
「ほら,見てみんな寝てるでしょ」
「…これは寝てるんじゃない,“死んでる”んだ」
「ゲゲッ」
そのとき,天井から誰かが降ってきた。
漆黒のロングコートにシルバーの長い髪。
「セフィロス!」
「誰?」
「クラウドだ!忘れたのか?」
「…」
セフィロスは長いまつげを伏せると,再びゆっくりと浮き上がり,空に向かって消えていった。
クラウド達はぼんやり見ていたが,突然ボン!という音がして,クラウドたちの目の前にピンク色のモンスターのような物体が立ちはだかった。
「つぶすぞ!」
クラウドの言葉を合図にユフィとレッド]Vもモンスターに向かって行った。
知性のないいままでのモンスターと違い,魔法も使ってくるため苦戦したが,なんとか斃すことができた。クラウドの足元に落ちていたのは美しい女性の腕。
レッド]Vが,
「…それは,ジェノバだな」
と言う。
「やっぱりセフィロスはジェノバの体を持ち歩いているんだ。そして約束の地を渡さないためにプレジデント神羅を殺し,自分の目的は自分の母親と一緒に約束の地を探してそこに住むことだ。そして一つ分かったことはセフィロスがやはり生きていた事だ。しかし同時に疑問が出てきた。本当に『約束の地』は存在するのか…」
 
 第8話 バカンスライフ
 
 クラウドたちの乗ったワゴン車が他の車に混じってフェリーから降りてきた。
その後で神羅のヘリコプターがルーファウスを迎えに到着した。
船から下りてきたルーファウスは不機嫌だ。
「…クラウドたちが乗っていたそうだな」
「はい」
「…セフィロスも乗っていたそうだな」
「はい」
「返事はいいからなんとかしたまえ」
ルーファウスは冷たく言い放ってヘリコプターに乗り込んだ。
 
ここはコスタデルソル。常夏の楽園である。
狭い車の中でじっと我慢していたので,一度休養しよう,ということになり,それぞれに別行動をはじめた。
クラウドは冷たい飲み物を求めてパブに入った。
真っ白な店内に入ると,大好きなジン・トニックを注文する。
真昼間から酒を飲むのは何日ぶりだろうか。
クラウドは今背負っている辛いことや心配事をしばし忘れて酒を楽しんだ。
 
窓から,真っ白い砂とさんご礁の美しい海が見える。
そして真っ赤なパラソル。
ー…パラソル?
パラソルの周りには若い女性たちが居並ぶ。
そしてデッキチェアに座っている青いトランクス水着の男。
「宝条!」
クラウドは二杯目のジン・トニックを飲み干すと,店を飛び出した。
宝条はお世辞でもマッチョではなく,色白で痩せていたが,最近はそんな男性の方が受けがいいらしくて,実際,宝条は非常に美しく,まるで映画のワンシーンのようだ。
クラウドがその様子を見ていると,エアリスが来た。
「何だ」
「あれを見ろ」
「ははーん,センセイ,休暇を楽しんでやがるな。クラウド,話聞こうぜ」
「ドクター,久しぶりだな」
クラウドが宝条に声を掛けた。
「君は誰だったか…」
サングラスをずらしてサファイアンブルーの目をジロジロと不審そうに向ける。その青はどんな青よりも美しく,狂気に満ちた青だ。
「クラウドだ」
「ああそうだったクラウド君。何の用かね」
「あんた,一体何してるんだ」
「何って…休暇を楽しんでいるのさ」
「もしかしてあんたもセフィロスをおっているんじゃないのか」
「分かっているのなら何故そんな事を聞くのだ」
クラウドはなんとなくイライラしてきた。しかし,このままブチキレたらクラウドの負けだ。
「なあ」
エアリスが前に進み出た。
「君はあのときの古代種の男だな」
「俺にはエアリスって名前がある」
「イファルナは元気にしているのか」
「お袋なら死んだよ」
「そうか。それは気の毒に」
宝条の口調には一切の感情がない。
「なぁ,セフィロスも俺と同じ古代種なのか?」
「それを知りたければセフィロス本人に会って確かめるがいいさ」
「それが分からないから俺達は困ってるんじゃないか」
宝条はクラウドにしか聞こえないような声で,
「…西へ…」
とだけ呟いた。
「西へって何が?」
と聞き返すと,宝条は再びサングラスをかけて顔をそっぽ向けてしまった。
 
 第九話 コレルの禿山で
 
 コスタデルソルで十分に休息した彼らは,再び旅を続けた。
ワゴン車は山道をゆっくりと進む。
車内のバレットの顔色は冴えない。
「乗り物酔いでもしたのかよ」
エアリスが聞くと,バレットはなんでもないとしか言わない。
地図によるとこの先にはコレルという小さな町がある。そこにも魔晄炉があるらしい。
岩肌の道を進み,鉄橋を越えるとそこがコレルだ。
コレルの町は歴史が浅い。もともとはこの辺り一体はなにもない誰も住まない荒野だった。しかし石炭が掘れるということで,工夫たちが集まり,彼らが自分達の住む町を作った。
しかしその町は炭鉱のあったころに比べて活気はなくなっている。その為,今度はコレルの町を観光地化しようと町が予算を大量に使って炭鉱博物館やホテルを建設したが,なかなか客が集まらず,多額の赤字になってしまった。
ワゴン車が『コレル・スーペリアル・イン』に到着した。
真新しい立派なホテルなのに車を誘導するためのドアマンもおらず,仕方なくクラウドは自分で駐車場を探して駐車して来た。
立派なドアをくぐると,そこはがらんどうとしている。
フロントのカウンターにクラウドが立つと,ホテルマンがはっとしたように気がついて奥からとんできた。
「あ,お,お客様ですか」
「そうだけど」
お客があまり来ないのかぼーっとしているようだ。
ホテルでの夕食は,なぜかカニをメインにした懐石だった。コレルは山の中なのに食事はカニ懐石。この辺りの意識の低さがホテルの閑散の原因ではないだろうか。
バレットが初めて重々しい口を開いた。
「…実はここは俺の生まれ故郷なんだ」
「そうなんだ。で,あんたがくらーい顔してることとなんか関係ある?」
エアリスが聞くと,バレットはうなずいた。
「全ては…俺の責任なんだ」
 
 第九話 子連れ狼の物語
 
 
それは今から4年ちょっと前の事である。
バレットはコレルに唯一の新聞社の記者だった。
町では,これまでさかんだった石炭の採掘業が町の主要産業だったコレルの町に神羅の魔晄炉が建設されることになった。最初はみんな不安だったけれど,魔晄炉ができたらそれまで炭鉱で働いていた人間を魔晄炉で雇ってくれると言う。炭鉱の仕事は危険だったしきつかったので,町の人はとても喜んだ。
そのとき,たった一人だけ神羅に再就職を希望しない工夫がいた。
ダインと言って,彼はバレットの昔からの親友だった。体はそんなに大きくなかったが,けんかが強く,いつでも正義感に溢れ,弱い者の味方だった。
彼はこんな言い分を言った。
「親父の代から引き継がれた大切な炭鉱を見捨てられるわけがねぇ」
ある日,神羅から新聞社に電話があり,魔晄炉の事を記事に書いてもらいたいから是非来て取材して欲しい,というものだった。デスクはこの仕事にバレットを選んだ。
魔晄炉の取材に行くと言ったらダインが自分も見学に行きたい,と言い出し,同行することになった。
魔晄炉の担当者のインタビューをしたり,魔晄炉の見学をして町に戻ってくると,町が騒がしい。
神羅兵と兵器開発部門の部長,スカーレットがいた。
スカーレットは四十代後半の鼻持ちならぬ派手な中年女で,彼女は神羅兵に命令して一人の子供をつるし上げていた。
顔をぶん殴られ,意識はもうなかった。
子供はいわゆるストリートチルドレン,と呼ばれるホームレスの少年で,スカーレットのバッグをかっぱらおうとしたところをつかまったらしい。当然スカーレットは少年を処刑すると言い出した。
神羅が怖かったから町の人は誰一人少年を助けようとする者はいなかった。
バレットとダインは町長を訪ねた。
すると町長はこれ以上ないくらい重苦しい顔をして,
「どうしようもない。神羅を怒らせてはまずい。我々の生活が悪くなるどころか,もしかしたら町そのものをつぶされてしまう。そうなったらどうする?しかもあの少年には両親がない」
ダインはうめいていた。
「…それで」
「簡単な算数だ。悲しむ人間は少ない方がいい」
ダインは町長を睨みつけると外へ飛び出した。
「ダイン!お前にもしもの事があったらエレノアとマリンはどうなるんだ」
バレットはダインを止めようと追いかけた。
「おい!お前ら!子供を放せ!」
ダインは子供のいる場所まで駆け上がったけれど,神羅兵に取り押さえられた。
数人の男に体を押さえつけられ,組み敷かれたダインはそれでも手足をバタバタさせた。
「全くゴキブリみたいな男だね。余計な邪魔が入ったから予定より執行を早くするよ。総員,用意始め!」
スカーレットが合図をすると,五人の神羅兵が少年を取り囲んだ。
ズガガガガガ!
少年の体が激しく振動すると,やがて動かなくなった。
少年の死体が放り出されると,神羅兵とスカーレットはいなくなった。
ダインは両手両足を地に付けて,
「…救えなかった」
と震えた声を出した。
バレットもまさか子供を射殺するとは思わなかったので呆然としていた。
その晩,ダインは家に戻ると言ったまま,家には帰って来なかった。
残された妻のエレノアは娘のマリンと一緒に良人(おっと)の帰りを待っていたが,ダインが帰ってくることはなかった。
バレットはダインとのよしみで,たびたびエレノア親子に食べ物を持って行ったり,話し相手になったりしていた。
ところがバレットの妻,ミーナがバレットとエレノアの仲を疑い始めた。勿論自事実無根の濡れ衣なのだが,しかしミーナは当分エレノアの家には行くなと大騒ぎした。バレットはエレノアとマリンが心配だったが,怒ったミーナは手が付けられない状態で,しばらく彼女のほとぼりが冷めるのを待っていた。
ある日,バレットが会社の電話からこっそりエレノアに電話をかけたが,つながらず不審に思って,エレノアの家に向かった。
エレノアはひどい欝になってものもろくに食えず,ガスを止められ,電気も止められ,寒い部屋で衰弱死していた。マリンだけは何重にも毛布がかけられ,命をしのいでいた。
当然バレットとミーナはその後大喧嘩になった。怒ったミーナは家を出て,他の男性と再婚した。その直後,ミーナは新婚旅行中に反神羅のテロに巻き込まれ,婚約者の男性もろとも死亡した。
バレットはこの町に住むには辛いことが多すぎた,遠くへ行こう,自分を知らない自分も誰も知らない町へ行きたい,と思い,マリンを引き取ってミッドガルへと引っ越してきたのだ。

 
 第十話 男の約束
 
バレットの身の上話を聞いて一同は黙ってしまった。
「それで,ダインという男は見つかったのか?」
レッド]Vが聞くと,
「いや,少なくとも俺は知らない」
一同が重苦しい雰囲気の中,エアリスがしゃべりだした。
「ホテルの近くにゲーセンがあるぜ。飯食ったら俺行ってくるわ。クラウドも行こうぜ」
エアリスがクラウドの腕を引っ張った。
 
アミューズメント施設『パーラーD』は煌煌と明かりを照らし,そこに建っている。
クラウドとエアリスはいきなり店の入口で,
「ちょっとそこの人!暗い顔してますな」
と声を掛けられた。
もちろん暗い顔というのはエアリスでなくてクラウドの事だろう。
「ほっとけ」
とクラウドが振り返ると,デブモーグリに乗ったやけにリアルな猫型ロボットがしゃべりかけていた。
「いやー,兄さん怖いわー。どうですか,占いやっていきませんか」
「なんだって?別にそんなものは興味ない」
とクラウドが言うのにエアリスが,
「まぁしゃれだよ,こんなもの。遊園地のおみくじマシーンみたいなもんだな。おい,探し物のありかなんかも分かるのか?」
「よくぞ聞いてくれはった。どんなものをお探しですか?」
「セフィロスっていう綺麗な姉ちゃんを探してるんだ」
「セフィロスですか…分かりました,ほないきまっせ」
モーグリのロボットが上下に震動し,口から感熱記録紙が出てきた。
『中吉。 旅行吉。持病の治療は早めに。ラッキーアイテムは赤い歯ブラシ』
「…なんじゃこりゃあ」
エアリスが言った。
「あれれ,困ったな,もう一回やらして」
また紙が出て来た。
『金銭のトラブルに注意。月末に出費の予感』
「おい,お前,どうなってんだよ」
エアリスが睨みつけると,
「わー,お願い,もっかいやらしてー」
今度は,
『探しているものには必ず会えます。
恋人を優先させると大切な友情にひびがはいるかも』
「それっぽいけど」
エアリスは首をひねっている。
クラウドも困っている。
「占い屋ケット・シーとしてはこんな不本意な結果,納得いきません」
「いや,気にするなよ」
クラウドが声を掛けた。
「そういうわけですので,僕もお客さんに同行させて頂きます!」
「はぁ!?」
「どない言うても付いて行きまっせ」
「…まぁ,いいか。ロボットなら食費もいらないだろう」
クラウドは腕組みしてそう言った。
そのとき,さっきまで沈んでいたはずのバレットの声がした。
「ダイン!ダインじゃないか!」
クラウドが駆け寄ると,店の裏でバレットと暴力団幹部風の男が向き合っていた。
「ずっと探していたんだ。こんなに近くにいたとは思わなかった」
バレットがダインの方に手を差し伸べようとするといきなり,ダインがバレットの顔すれすれに発砲した。
「なにをするんだ!」
クラウドが間に入ろうとしたがバレットが止めた。
「いいんだ,クラウド,これは俺の問題だ」
ダインは言った。
「正義なんてものはくだらないもんだと気が付いたんだよ。あのとき,どんなに止めたって町への神羅の流入は止められなかった。どんなにがんばってもあの孤児は殺された。1人の努力や意地なんてなんの役には立たないってな。どんなに苦しんでももう何も返ってこないんだ。エレノア,マリン…」
やさぐれたダインをしかりつけるようにバレットは語気を強くした。
「マリンは生きてるぞ!」
ダインははっとした。
「あの後,俺はマリンを連れてミッドガルに引っ越したんだ。そうだ,ダイン,今度ミッドガルの俺の家に来いよ。マリンに会いたいだろう」
「…そうか,マリンは生きているのか。だったらエレノアのところへ連れてってやらなくちゃな。エレノアが寂しがってる」
「何を言うんだ!」
バレットがダインの襟首をつかんだ。
ダインがいきなりバレットの顎を殴った。
ダインは手でバレットを手招きした。
「来いよ,バレット。相手してやろう」
バレットは殴られたところをさすり,ズボンのほこりを払ってから,
「…分かった」
と,右手の銃を外した。
素手の殴り合いが始まった。
といってもダインが一方的にバレットに殴りかかるだけで,バレットは必死に防御をしているだけ。
「どうした,どうした,かかってこいよ」
ダインはバレットが倒れるまで殴り続けるつもりだ。
「いいかげんにしろ!」
とうとう業を煮やしたバレットが左ストレートをダインの,自分が殴られた同じ場所に打った。
ダインは吹っ飛び,頭だけ起こしてバレットを驚いて見上げた。
「…つよく,なったな」
ダインを見下ろすバレットは泣いていた。
「これ以上自分をいじめるな。もう自分を許してやれ」
「…許してやれ,か。俺はその言葉をずっと待っていたのかも知れねぇな」
ダインはよろよろと立ち上がった。
「なぁ,バレット。考えてもみろ。俺がもしお前の家に行ってマリンに会ったところで,マリンは俺の顔なんて覚えてはいないさ」
「だけどお前はマリンの本当の親だろ」
「…分かってる。俺だって本当はマリンに会いたい。いつかは会いたい。だけど気持ちの整理がつかない。だけどいつか,いつか会いに行く。そのときまで待っていてくれるか」
「ああ」
バレットがダインの手を強く握った。
「友達だからな」
「…ありがとう」
ダインはバレットに礼を言った。
そしてダインはなおも続けた。
「必ず行くから。それまで待ってくれ。今はさよならだ。行ってくれ」
「…」
「早く!おい,そこの兄(あん)ちゃん達,バレットを連れて行ってくれ!早く!そしてこっちを振り向かせないでくれ。親友にこれ以上惨めな姿を見られたくない,頼む」
ダインが叫ぶのでクラウドはエアリスと2人でバレットの肩を抱いてその場を立ち去らせようとした。
バレットは何か言いたそうだったが,ダインとの男の約束を信用して黙って背を向けて歩いた。
3人が二十メートルほどその場から離れたとき,銃声が響いた。
「ダインー!!」
バレットが振り返ろうとした。しかしエアリスがそれを止めた。
「振り向くんじゃねぇ!!アイツとの約束を忘れたのか!!」
バレットは口を曲げて,その場に崩れ,男泣きに泣いた。
 
 第十一話 ゴンガガ村の男
 
 翌朝,バレットはもう元気になっていた。
一晩中泣いて,すっかり泣き晴らしたようだ。
「さぁ,セフィロスを追うぜ。俺達は行くしかないんだ,星を守る為に」
バレットは言った。
ワゴン車は南回りでゴンガガという片田舎に立ち寄った。
町の中に入ると,タークスのレノとルードと出くわした。
「あっ,やっぱり来たな」
レノがそういってクラウドを攻撃した。
クラウドは不意打ちを食らって面食らったが,なんとかレノの力を封じた。
「時間だぞ」
ルードが言ったので,2人はいなくなった。
「なんだ,今の?」
エアリスが聞くと,バレットが,
「あいつ,俺たちの事“やっぱり来たな”って言ってたろ。なんで俺達がここに来ることが分かったんだ?」
とある家の老夫婦がよかったらお茶を飲んでいけ,と声を掛けてくれた。
「ミッドガルから来られたそうだね」
夫の方が声を掛けてきた。
「そうです」
ティファが応えた。
「うちの息子ももう18年位前にミッドガルに出て行ったんだよ。ソルジャーになるんだって。毎年正月にはいつも帰省していたのに,1年前から急に音信が途絶えてね」
「名前は?もしかしたら俺が知ってるやつかもしれない」
クラウドが言った。
「ザックスっていうんだよ」
「ザックス!」
声を出したのはクラウドでなくエアリスだった。
「ほら,クラウド,言ってただろ。うちの店によく1人でジン・トニック飲みに来ていたソルジャーがいたって。そいつの名前がザックス」
「それじゃあ,うちのザックスをご存知なのですか」
妻の方が声を上げた。
「まぁな。だけど1年位前に急に店に来なくなったんだ」
「そうですか」
「がっかりさせて悪かった」
エアリスが頭をかいた。
気まずい空気の中に水を差したのはユフィだ。
「ねー,おばさん。あそこに見える瓦礫は何?」
「あれは元は魔晄炉だったんですけど,半年前にメルトダウンして大爆発事故が起きましてね」
「ふうん。アタシ見てくる」
好奇心旺盛なユフィは1人魔晄炉のほうへ歩いていった。
瓦礫の魔晄炉の中にヘリコプターが下りてきた。神羅のロゴが付いていたのでユフィは慌てて隠れた。
ヘリコプターから降りてきたのはスカーレットとツォンだ。
「フン,ここにもビッグでヒュージなラージなマテリアはないわね」
スカーレットが言った。
「そんなマテリアがあればアタシの手ですごい武器が作れるのよ!…あなた知らない?」
「いいえ」
「でもまぁ,そんな武器が作られたとしても使うのがあのハイデッガーですものね。宝の持ち腐れじゃないの」
「…」
「あら,ハイデッカーは貴方の上司だったわね。ごめんなさいね,キャハハハハ」
2人は再びヘリコプターに乗って行ってしまった。
「ビッグでヒュージなマテリア?そんなものがあんの?」
 
 第十二話 光り輝く谷で
 
 ワゴン車はゴンガガ村を北上して,渓谷に入る。
夕方になり,あたり一体をオレンジ色の光が包み込む。
「クラウド,もう暗いからこの辺りで今日は休みましょう」
「そうだな」
クラウドはティファの提案を呑んだ。
「それではコスモキャニオンに行ってくれ」
レッド]Vが言った。
険しい岩肌の谷に抱かれるようにしてコスモキャニオンの町があった。
「ここは私の故郷だ。私の一族はこの美しい谷と町の人々を守ってきた。かつて私の父は私の母と私を置いて逃げ,母は死に,私だけが残された。まぁ,ゆっくりして行きたまえ」
レッド]Vはそう言って先に立った。
町の入口で,住人の男性が
「ナナキ,戻ったのか」
と走り寄って来た。
「うん!ただいま」
レッド]Vは子供のような口調になった。
「町長にご挨拶を」
男性に促されてレッド]Vは町の中の一番背の高い建物に入っていった。
「クラウドたちも一緒においで」
エレベーターで最上階に上がると,そこはドーム型の天井だった。
そこには頭の禿げ上がった白ヒゲの人の良い老人がいた。
「ホーホーホー,ナナキ,無事に帰ってきたな」
町長であり,町の長老であるブーゲン・ハ―ゲンがいた。
「うん!この人達が助けてくれたんだ」
レッド]Vがクラウドたちを振り返った。
「そうか,わしが住民に代わって礼を言おう」
「ナナキって?」
ティファが質問すると,
「ナナキはこいつの名前じゃ。まだまだ子供でな。人間の年齢で言うと,まだ14,5歳くらいじゃよ」
「じっちゃん,クラウドは星を救う旅をしてるんだって」
「ホーホー,星を救うとな!人間にそんなことができるわけがない」
ブーゲン・ハーゲンはからからと笑ったが,
「じゃが」
と続けた。
「そんなことを考えているのならわしのアレを見せても無駄にはならんな」
ブーゲン・ハーゲンは一同をドームの中央に連れて来ると,スイッチを入れた。
ドームはプラネタリウムになっていた。
天井に美しい流れ星が走る。
「人間は死ぬとその体は土,星に返る。しかし魂はどうなる?実は魂も星に還るのじゃ。星に還った魂は精神エネルギーとなって混ざり合い,この星を駆け巡る。これをライフストリームと言うのじゃ。新しい命はライフストリームの祝福を受けて生まれ,死ぬとまたライフストリームになるのじゃ。これが命の仕組みじゃ。ライフストリームのお陰で人間や動物,植物,この星さえも命を繋いでおるのじゃ。その繋がりを断ち切ってしまったのが神羅の魔晄エネルギーだ。魔晄炉がライフストリームをどんどん吸い上げたらどうなる。星は枯れて文字通り死んでしまうのだぞ」
「…」
クラウドは黙って話を聞いていた。
「この町には他にも星命学を研究している者がおる。彼らから話を聞いてもよかろう」
ブーゲン・ハーゲンはコスモキャニオンにある大学の星命学の教授を紹介してくれたので,大学へ行った。
教授は,
「町長から話を聞いている。私で知っていることならなんでも答えましょう」
と言った。
クラウドにとって一番聞きたいことがあった。
「約束の地,というのは本当に存在するのですか?」
「ふむ,約束の地は存在するといえば存在します。しかし実体のないものなのです」
「意味が分かりませんが」
「約束の地は古代種にとっての死に場所の事だと私は考えています」
「死に場所がどうして至上の幸福になるんですか」
「古代種はその生涯をかけて星の精神エネルギーを育てる旅をしてきました。植物や家畜を育て,星を豊かにする旅です。辛いたびの果てに安らかな死が訪れる,それが至上の幸福だったんではないでしょうかね」
死,とか死に場所と聞いてエアリスはかなり動揺したらしく,煙草に火をつけた。ライターを持つ手がかすかに震えている。
「昔」
教授が言いかけた。
「神羅の科学者でガスト,という博士がいました。彼はもうずっと神羅で古代種の研究を続けていました。三十年少し前,ひょっこりと現れて,私に古代種の仮死状態になったものを見つけた,と喜んでました。確か,ジェノバ,と名づけていました。しかしそれからしばらくして,彼は真っ青な顔をして私に言いました。ジェノバは古代種ではなかったと。その後彼は逃げるように行方を晦ましました。その後の事は知りません」
「それじゃ,セフィロスは古代種じゃなかったのか」
バレットが言った。
 
夜,クラウド達はブーゲン・ハーゲンの家の夕食会に招待された。
「俺はいつか神羅からこの星を救ったときにアバランチを結成したここへ…コスモキャニオンへみんなで来て祝杯を挙げようと思っていた。だけどアバランチのみんなはいなくなってしまった」
バレットはうつむいた。
「だけど。俺は戦おうと思う。俺の身勝手な神羅への復讐とか思われても関係ない。俺が何かアクションを起こすことで星が救われるのなら俺は戦う」
バレットは力強く誓った。
隣でエアリスは管を巻いていた。
「色々聞いたけど。俺にはさっぱりわからねぇ。セトラの役目とかそんなもの俺は関係ねぇ。俺はただのスラムの酔っ払いだぞ…」
レッド]Vは,
「こうしてみんなと一緒にいるといろんなことを思い出すよ。だけどあんまり考えたくないな」
「?」
「オイラの家族の事さ。オイラと母ちゃんを捨てた意気地なしで弱虫の父ちゃんを思い出すからさ!」
夕食が済むと,ブーゲン・ハーゲンがレッド]Vに声を掛けた。
「付いてきなさい,みせたいものがある。そうだ,そこの君も」
と,クラウドにも声を掛けた。
町の外れの小さな洞窟。
ブーゲン・ハーゲンに案内されて,冷え切った洞窟に入る。
「さあ,そこに何が見える?」
「あっ!父ちゃん!」
そこにはレッド]Vとよく似た獣の石像があった。
「この石像は…」
クラウドが近付いた。
「それは石像じゃない。石になってしまったナナキの父親じゃ」
ブーゲン・ハーゲンは語り始めた。
「昔ギ族と呼ばれる未開の部族がこの谷を攻めてきたとき,お前の父はここでたった一人戦い,ギ族を町の中へ入れなかった。ギ族の弓矢で体を石にされてもこの町を守り続けた。そして今も」
「母ちゃんはこのことを?」
「もちろん知っておった。だからお前のおふくろさんはわしにここを封印してくれるように頼んだのじゃ」
レッド]Vは石になった父をじっと見ていた。
「クラウド君とやら」
「はい」
「君は先にホテルに帰って休んでいてくれまいか。わしはナナキに話がある」
クラウドは無言で洞窟を出た。
「ナナキ」
「はい」
「クラウド達についていきなさい」
「えっ」
レッド]Vが振り返った。
「わしは,クラウド達が本当に星を救えるとは思わない。今さら全ての魔晄炉を停止しても焼け石に水。セフィロスとやらを斃しても同じことだろう。しかしわしもこの星で生活している以上,何もしないのはあまりにも星に申し訳ない。もし星が救えるのならわしは95パーセントの不可能よりも5パーセントの希望に掛けたいと思うようになった。しかしわしはあまりにも年を取りすぎた。ナナキ,お前はわしの代わりにこの星の成り行きを見届けなければならない」
「じっちゃん」
「お前が旅立つ前にお前の父親の本当の姿を見せておきたかったのじゃ」
「分かったよ,じっちゃん!オイラ,クラウドたちについてく!」
決意を新たにしたレッド]Vの遠吠えはいつまでも洞窟に,町に,響いていた。
 
翌朝,クラウド達がワゴン車に乗ろうとしていると,レッド]Vが追いかけてきた。
「クラウドーオイラも行くよ!」
「一体どうしたんだ。家に帰るまでだったんじゃなかったのか」
「いや,いいんだ。オイラもこの星の一員なんだ!」
レッド]Vはそう言って,ワゴン車に乗り込んできた。
             <第二章 完>

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