序章
あれから6年が経っていた。星は,町は,再びもとの活気を取り戻しかけていた。クラウドは再びミッドガルに戻って暮らすようになった。
クラウドは今,子供と一緒にティファと住んでいた。子供の名前はセレネ。あの大空洞でセフィロスが生んだ子供である。ティファは今はクラウドの仕事の事務を手伝いながら,クラウド親子の面倒も見ている。
伝票整理の手を止めてからふとティファは6年前の大空洞での出来事を思い出す。
大空洞から戻ってきたクラウドが泣きじゃくる女の赤子を抱いて決意を込めた顔でティファを見たときの事。
ミッドガルに戻る飛行艇の中でなれない手つきで赤子の体を洗うクラウドを手伝った。
新生児の体は柔らかく,確かに体温があった。
「…赤ちゃんって,柔らかいね」
ティファは言ったが,クラウドは黙っていた。
その足ですぐにルクレツィアの医院で見てもらうことにした。
ルクレツィアは自分は産科は専門ではないが,と言いながらも丁寧にへその緒の処理をする。このへその緒はかつてのセフィロスの体と繋がっていた。これを切り落とせば,もうセフィロスとは他人になれる。クラウドもこの子も。

「皮肉よね。私はセフィロスを生んで一度も抱いてやることはできなかった。だけど私はその子の娘を抱いているもの」
ルクレツィアは赤ん坊を洗いながら言った。

産着を着せられた赤ん坊を最初に渡されたのはクラウドだった。
クラウドはタオルで手を拭いてから赤ん坊を受け取ると,自分の上着のポケットの封筒を取って来て欲しいと頼んだ。
白い封筒には大変几帳面な字で『命名札』と書かれている。
「これは私よりも先にクラウドが見るべきじゃないの」
クラウドは悩ましげな目をして,
「分かってる。だけど俺にその勇気はなかった」
と言う。
ティファはためいきをついて,
「分かったわ。封は私が開ける。でも,ちゃんとクラウドも一緒に見て」
と,白い封筒の糊付けを開けた。中には短冊のような紙が1枚だけ入っていて,丁寧な楷書書きで
『SILEN』
と書かれ,下に宝条,とサインがしてあった。
「サイレン?シレン?変わった名前よね」
ティファが首を傾げると,
「セレネだ」
と,クラウドはもう一度赤子を抱き上げて自分自身に確認するみたいに言った。
ミッドガルに戻ってきたクラウドとティファはセレネという3人の生活を始めた。
ティファは以前のバーを七番街の上の街に移転し,クラウド親子の衣食住の面倒を見ていた。
クラウドは金さえもらえばなんでも運ぶという運び屋の仕事を始めていた。もともと人とのコミュニケーションが苦手なクラウドには適職であった。几帳面で責任感の強いことから,仕事の依頼は多く,それなりの収入もある。現在はドライバー5人,女子事務員3人を抱えている。会社の1階部分の後ろ半分と2階が彼らの住居だった。家庭でもあまり多くは語らないが,クラウドはこの一人娘をとても深く愛しており,良き父でもあった。
ティファはここまでの自分達の道のりをそう思い出して,やっと手に入れた安定した平和な生活に感謝していた。
奇妙な形であったが,彼ら3人はそれなりに家族として機能していた。
しかしそんな安穏とした生活は再び起こった災厄によって簡単にぶち壊される。
―星痕症候群。
体中にあざのようなものが出来て,そこから発熱する,いわば感染力のないインフルエンザと思われるこの病気を,クラウドも発病した。ただ,症状は軽かったので,クラウドはこれまでどおり仕事を続けていた。もちろん,病気の事をティファや娘には黙っていた。
 
 第一話愛別離苦
 
その日の夕食はカレーだった。
和やかな家族の食卓をかき消したのは,壁にかかった電話の呼び出し音だった。
ティファがコードレスの受話器を取る。
「はい」
ティファは電話の相手に驚いたようだったが,すぐに,
「覚えてるぞ,と」
と言い,こちら側を怪訝そうに見るクラウドに受話器を持たせた。
 
 翌朝,クラウドはミッドガル郊外の保養地ヒーリンへバイクを走らせていた。1人で遠出することは苦痛ではない。むしろ誰にも気兼ねもせず,1人でいられる。
そんなクラウドの背中を遠くの崖から眺める者達がいた。
2人の少女と1人の少年。年齢は二十歳前。
彼らは恐らく三つ子であろう,同じ髪色に同じ瞳の色をしていて,3人とも真っ黒な服装で,真っ黒なバイクに乗っていた。彼らの顔立ちはとても美しかったけれど,珍しい瞳の色と,白過ぎる肌は,彼らが普通の人間でないことを現す。
少女のうちの1人,腰にガンブレードを挿し、左端のすらりと背筋が伸びた,少し憂いを帯びた表情の長髪の少女がクラウドを目で追いながら,
「ね,カダージュ,あれが私たちの兄さんなの?」
と,真ん中の双眼鏡を使っている背中に細身だが二枚刃の刀を背負ったシャギーカットの小柄だが一番年嵩であろう少女に聞く。
「そうよ,ヤズー。きっと私達のママの事も知ってるわ」
ママ,と言う単語を聞いて右端にいた左腕に爪の様なとがった腕輪を装備した背が高くいかつい少年は恐らく3人の中で末っ子であろう彼が,泣きそうな顔をすると,ヤズーは,
「やめてよ,ロッズ,こんな所で泣かないで。そんなことより,私,兄さんと話してみたいの」
「それはいい考えね。兄さんにママの事を聞いてみれば」
カダージュはそう応えて,
「それじゃ,行こっか」
と言うと,彼女の左右にいた2人がバイクを発進させ,崖の上を飛び降りた。
クラウドはそんなことも知らずにいつものようにバイクのハンドルを操っていた。
風の音に混じって,自分のものでないバイクのエンジン音が聞こえる。こんな偏狭のような裏道を通るバイカーなんて自分以外にもいるんだな,とミラーで後方を確認すると,自分の左右に真っ黒いバイクに乗った2人がぴったりとクラウドのバイクにペースを合わせてくっついていた。
「!!」
嫌な予感がしたクラウドは,バイクの中に隠している自分の得物に手を伸ばした。
先にクラウドにアプローチを仕掛けてきたのはヤズーだった。
長い髪を揺らせ,陰鬱な瞳でウインクする。
「初めまして。兄さんに聞きたいことがあるの」
今度は反対側にロッズが現れ,節分の鬼の面のように白い歯をにっ,とむきだしにして,
「ママはどこだ?」
と意味の分からない質問をする。
「人違いだろう」
クラウドはそう言って,スピードを上げた。
気味の悪いもの,得体の知れないものには関わらないことに限る,とクラウドは経験から知っていた。
ヤズーとロッズはクラウドの背中を追いながら,それぞれ片手を掲げ,漆黒の獅子を召喚した。二頭の獅子はクラウドを左右から追いかけてきた。
―しつこいな。
クラウドはバイクに装備していたバスターソードを引き抜くと,左右に振って獅子を叩き切った。しかしこの獅子自体は実体がないのか,切っても切っても粘土のようにぐにゃりと崩れては,再び獅子の形に戻る。
―きりがない。
クラウドはバスターソードをしまうと,さらにアクセルを廻した。
バイクは轟音を上げ,流星の如く疾走した。
その様子を離れた場所からカダージュは見ていた。
「…さて,と。鬼ごっこはあの子達に任せて私は別行動」
と,携帯電話を取り出した。
 
 第二話 血と骨と肉と
 
ようやく謎の2人組の追っ手を振り切ったクラウドは目的地のヒーリンに到着した。
切り立った山の斜面にある白亜の別荘が,『待ち合わせ場所』だった。用心のためバスターソード一つを背中に背負い,クラウドは別荘のチャイムを鳴らした。
インターホンからの返事はなく,ドアを開ける。
広いホールには電気がついていたし,エアコンが入っているようだ。
「いらっしゃいませぇぇ!」
クラウドの顔に向かって鋭い銀色のロッドが伸びてきた。きっと百分の一秒くらいのタイミングでクラウドはそれを避け,ロッドを持った手をひねり上げて片手で投げ飛ばす。
「…さすがだぞ,と」
クラウドに投げ飛ばされていたレノが起き上がった。
「何の用だ」
クラウドは相変わらず無愛想で不機嫌だ。
ドアが開いてルードが現れた。レノより多少は頭がいいらしいルードはすぐに不機嫌そうなクラウドの顔から,下手に刺激するのは得策ではないと判断して,素直に奥の応接室に案内した。
彼らがここに来てからさして月日が経っていないな,とクラウドは推理した。
もともとこの別荘に据え付けであったシンプルな赤と金の縦縞柄の応接セット以外は何もなかったし,壁に掛けられている絵や部屋の隅にある裸婦のブロンズ像は白い布が掛けられたままであった。
程なくして,電動の車椅子に乗った男が入ってきた。白い麻のスーツを着ていたが全身ひどい怪我で,首にはコルセットをはめ,スーツの下には包帯がぐるぐるに巻かれ,まるでミイラのようだ。さらには頭から布をアラビアのロレンスのようにすっぽりかぶり,こちら側からは顔がよく見えないようになっていた。
しかし,顔が分からなくてもクラウドはその男が誰だかすぐに分かっていた。
「ルーファウス,なんだな」
クラウドは冷静ながらもその小さな声にはわずかな驚きがあった。
「強いな,“兄さん”。相変わらず腕は立つんだな」
「なぜ俺を呼んだ」
「相変わらず兄さんは短気でせっかちなんだな。私は兄さんに仕事の依頼をしたいだけだ。言うならば客だよ」
「あんたなんかに兄さんと親しげに呼ばれる覚えはない。ここへ来る途中も知らない2人組に兄さん,と呼ばれて襲われた。あんた,知ってるだろ」
「カダージュの三姉弟か」
「何なんだ,あいつら」
「順を追って説明しよう」
ルーファウスはひざ掛けの上で指を組んだりほぐしたりした。
「我々はあの後,セフィロスのいた大空洞の調査をしていた。そこへ邪魔したのがあの3姉弟だ」
「何の為に?」
「分からない。しかし我々が作業を続ける限り彼らが執拗に追ってくるのは事実だ。しかも連中はとても凶暴で,執拗だ。…そう,まるでヒステリーの女と変わりない」
ルーファウスはそう言って肩をすくめた。
「そこで兄さんにボディガードを頼みたい。もちろん,受けてくれるだろう?」
「断る」
クラウドはソファーを立った。
「あんたやあんたの会社がどうなろうと知ったことじゃない」
クラウドはドアに向かって歩いた。しかしすぐに足を止めた。
「一つだけ質問させてくれ。カダージュの兄弟達がママはどこだって聞いてた。ママって誰だ?」
ルーファウスは,
「こんな荒れた世の中じゃ,親のいない子もたくさんいる。兄さんも男手一つで子供を育てているだろう?」
クラウドは,
「俺はひとりじゃない。…子供はティファがとてもよく面倒を見てくれている」
ルーファウスはさらに身を乗り出し,
「娘さん,今度の春には小学生だそうだな。いろいろと物も入用だろ?」
と畳み掛ける。
「…金だけが全てじゃない」
「兄さんからそのセリフが出るのは意外だな。兄さんは誰よりも金が好きなはずだろ」
「ルーファウス,俺は変わったんだ」
クラウドはそう言い切って部屋を出た。
建物を出てバイクに乗るまでの間,クラウドは悩んでいた。
本当はルーファウスが生きている姿を見たとき,少しだけ安堵した。
なぜならルーファウスはこの世にたった一人の肉親である。血は水より濃く,たとえ共に過ごした時間はなくとも,腹は違えど,自分とルーファウスは兄弟なのだ。
6年前,ルーファウスが自分の肉親だと知ったのは,すでにルーファウスが爆発事故に巻き込まれた後だった。あの時,クラウドの心に銃弾で撃たれたような隙間を感じたのは事実である。
そしてルーファウスにとっても肉親と呼べるのはクラウドだけだ。自分には娘がいるが,独身のルーファウスには子供がいない。いくら金があっても地位があっても彼はひとりぼっちなのだ。
もしかしたらそぶりだけでも彼の依頼を受けた方がよかったのではないか。
そう思うとクラウドはとても憂鬱な気分になるのだった。
帰り道,クラウドは墓地に立ち寄った。
墓石には『ザックス・フェア』と彫られている。
クラウドは墓石の前に紙コップを置くと,ジンを注ぐ。
もう一つの紙コップにもジンを注いで,もう一方の紙コップに乾杯する。
「たまには2人でゆっくり飲もう」
クラウドは酒を少しずつ口に含みながら,
「お前の分まで生きようと思ったんだがな…」
と呟き,
「なぁ,俺はどうすればいいんだ?動くべきか,止まるべきなのかを」
と墓石に向かって問いかけた。
 第三話 彼の巣
 
その日,クラウドは帰って来なかった。電話もメールも通じない。
心配になったティファはセレネを連れてある場所に連れて行った。そう,かつてクラウドとセフィロスが暮らしていたミッドガルの高級住宅地にある高層マンションである。もしかしたらここにいるかも知れない,と思って。
「これからどこへ行くの?」
セレネがティファを助手席から見た。
「貴方のパパとママが住んでいた部屋よ」
ときどき車のハンドルを握るティファはセレネの顔を見るのが怖くなる。
いっそセレネがセフィロスの単為生殖,処女懐胎による出生であればどんなによかっただろう。しかし,セレネのすそがはねた明るい金髪や深いブルーの瞳は間違いなくクラウドの遺伝子を引き継いでいる。
かと思えば時折見せる笑顔,そう,あの口元を引きつらせて笑うあの笑顔は,『あの女』の媚び笑いそっくりでぞっとすることがある。
とはいえ,セレネはまだ6歳で何も分からないし,まっとうな人間に育ってくれるかどうかは自分とクラウドの躾や教育に全てかかっている。責任重大ではあるが,そうすることによってセレネがその母親のように発狂することも阻止できるだろう。そして何よりもセレネは今,とてもティファになついている。だからセレネは言う。ティファがいるから寂しくない,と。
ティファとクラウドはセレネに『ママは遠くへ行った』と話してある。いつかセレネが大人になったとき,本当の事を話したいと思ってはいた。
セレネが一度だけ見た母親の写真は,クラウドと2人の結婚式の前撮り写真だ。
「さぁ,ここ」
ティファはマンションの鍵を開ける。合鍵はもしものときの為にクラウドから預かっていた。
室内は綺麗に片付いていて,クラウドがたびたびこの部屋へ戻っていることが分かる。勿論本人は不在だった。
もし不在だったとしても何か手がかりがつかめるだろうか。
「パパは,ここに住んでいたの?」
セレネが走り出した。
「待って。危ないよ」
ティファはセレネの後を追いかけて中へと入った。
ティファがここへ来たのは三度目だが,実はまだ馴れていない。
リビングのテーブルの上に出前でとったのだろう,もやし炒め定食が手付かずの状態で置かれていた。
「クラウドはさっきまでここにいたの?」
奥の寝室にはダブルベッドがあり,クラウドがしばしば一人でここに泊まっていた形跡がある。
セレネは高級そうなベッドが珍しいのか,上に上がると,飛び跳ねた。
ティファはぼんやりと辺りを眺めていたが,サイドテーブルに解熱剤と温湿布が目に入った。その下にはマテリアを保管したアイスボックス。
―もしかして,クラウドもあの病気に?
セレネが近付いてきてティファの顔を見上げた。
「ティファ,どうしたの?」
「なんでもないのよ」
―病気の事は話さない方がいいわね。
「それより,もう家に帰りましょう?」
「ええ?パパが見つからないのに?」
「大丈夫。パパはきっとうちにかえってくるから。帰ってきたら“メッ!!“してやりましょう」
ティファはセレネの手を引いて部屋を出た。
 
 第四話 新しい傷と古傷
 
「ぐはっ!…つ,つぇぇ」
「…!!」
レノとルードがそれぞれ床に叩きつけられる。身長が150pにも満たない小柄な少女のどこにそんな腕力があるのか。クラウドに似て長身のルーファウスの車椅子の前に小柄なカダージュが威圧するように立つ。
「本当の事言ってよ」
ルーファウスは身じろぎもせず,
「何度も言っている。あれは我々が君達から逃げるときにヘリから落としてしまったんだ」
「そう。言っておくけどつまらないウソはつかないでよね」
カダージュが着ていたコートのポケットから取り出したのは,部下のイリーナの社員証とシヴァの召喚マテリア。
「目的は何だ,復讐か?世界征服か?」
ルーファウスは決して慌てない。
「多分復讐」
カダージュは後ろで憎んで背中を向けた。
「みんなでママの復讐をするのよ。この星にね。社長も知ってるんでしょう?星痕の事」
カダージュはルーファウスの手元に目をやる。小さいが真っ黒なあざがある。
ルーファウスもまた星痕症候群が発病していた。
「気付いていたのか」
「まぁね。そうそう,教えてあげる。星痕はね,ライフストリームの中で私達のママが頑張っているから。それなのに私達はママの為に何も出来ない。とても悔しいわ。だって私達はただの思念体。もしママに会えたらママの細胞を少し分けてもらうの。そうすれば生身の体が手に入るわ。心だけじゃ生きていけないの。…本当のリユニオンの為にはね」
「…リユニオン,だと」
「頭がいい社長ならもう気付いてるでしょ」
カダージュはルーファウスの足元に跪き,顔をゆっくりと上げ,その顔を見せた。
カダージュの気味の悪い薄ら笑いの影にフラッシュバックのように別の顔が浮かび上がる。
 第五話 酒呑童子,現る
 
2人がマンションの駐車場まで来ると,向こうから誰かがやって来る。
そう,あの髪を逆立てた少年,ロッズだった。
痩せ型の筋肉質で背が高く,顔は幅広の二重の目に,高い鼻,薄い唇のいかつい顔立ちに眉や下唇,両耳についたたくさんのピアスがさらに威圧感をくわえた。
ティファは彼とは面識はなかったが,明らかにこの少年に異様さを感じると,セレネを後ろへやった。
少年はギラギラした目でセレネを見つけると片手を差し出した。
「遊ぼう」
「嫌だよ!」
セレネはきっぱりと言い放った。
「嫌か。ところでうちのママを知らないか」
「知らないわよ」
と,ティファ。
「そっか。じゃ,遊ぼうか」
ロッズは手招きした。
ティファはセレネに車に戻るように言うと,ポケットからグローブを出してはめた。
「俺,本当はその子と遊びたかったのになぁ。“おばさん”には用はないんだけど?」
「!!」
先に動いたのはティファだった。
素早いラッシュをロッズに浴びせる。ロッズはこれを器用にかわしていたが,足元を滑らせてバランスを崩したところにティファの怒涛の連打から飛び蹴りを食らう。
派手に倒れたロッズだったが,すぐに起き上がって素早いパンチをティファとかわす。2人ともスピード腕力共にほぼ互角らしくなかなかどちらかのクリーンヒットはない。ロッズは飛び蹴りのティファの足をつかむとハンマー投げの如く振り回して放り投げる。吹き飛ばされたティファは駐車場のコンクリートの柱に叩きつけられたがすぐに体勢を直してロッズに向かって走る。ロッズもまたティファに向かって走る。
「はぁーーーーーーー」
「うぉーーーーーーー」
ティファの手が先にロッズの頭に触れた。
―獲った!!
ティファはそのままロッズの髪をつかんで数メートル引きずり回した。さらにロッズを放り投げ,自分もジャンプして飛び膝蹴りをお見舞いした。
「ぐがー!!」
ロッズはアスファルトの上に落ちていった。
ティファはロッズの落下地点から離れると,セレネを探した。
「ティファ!」
ティファは車の陰から出てきたセレネを抱きかかえた。
「逃げるよ」
そのとき,妙なファンファーレが鳴った。
ティファは空耳かと思ったが,セレネにも聞こえるらしく,2人は周りをキョロキョロした。
ちょうどロッズの落下地点からロッズが起き上がった。
ロッズは携帯電話を取り出した。ぴたりとファンファーレが止まった。どうやらあの奇妙なファンファーレはロッズの着信音のようだった。
「は?ここにはいねぇよ。…だーかーらー,泣いてないってば!!…え?連れてくのか?」
電話を切るとロッズが戻ってきた。
「…続きだ」
ティファは下唇をかみしめ,構えた。
「行くぜー!」
ロッズが突進してきた。ティファはこれをはじいたつもりだった。
しかし目の前にロッズはいない。
「はずれー」
ロッズはティファの背後にいた。
どうやら加速装置のようなものを使ったらしい。
「おらよっ!」
ロッズの左腕に装備された腕輪は仕込み杖のように高電圧の流れる槍が飛び出るようになっていたのだが,それがティファの肩に刺さった。長さ10pほどの槍はティファの右肩を貫いた。
ロッズはそのままティファを壁に放り投げた。
倒れたティファにさらに追撃を仕掛けようとしたとき,背後から蹴る者がある。
振り返ると,ロッズの背中を一生懸命蹴るセレネの姿があった。
「このっ,このっ!」
ロッズはセレネを疎ましそうに見る。しかしセレネは逃げるどころか,しっかりそこに足を踏みとどまらせ,後ずさりすらしない。
ティファは自由にならない体をもがくようにして声を振り絞り,
「…逃げて」
と叫んだ。
セレネは首にかけたペンダント,緑のトライアングルのトップが付いた,お祭りのおもちゃ屋でクラウドがセレネに買ってやったそれを強く握り締めた。
 
その頃,街では不思議なことが起こっていた。星痕症候群を発病した子供たちを一箇所に集めて療養所へ運び,そこで治療するのだという。治療費は無料,ということで,親達は喜んで子供を預けた。子供たちの乗るバスの傍らにはあの陰気な美少女,ヤズーが立っていた。
 第六話 鎮痛剤
 
駐車場でバイクを降りたクラウドが見たものは気を失っているティファだった。
「おい,しっかりしろ!」
クラウドが何度か体をゆすってようやくティファは目を覚ました。
「…知らないヤツが来て…そうだ,セレネが!!」
ティファは体を起こして周りを見る。
「落ち着け」
クラウドが手を差し伸べようとしたとき,差し伸べた左腕に激しい発熱が起こった。
「…!!」
解熱剤はマンションのベッドのわきだった。しかし全身がしびれて動けそうにはなかった。
クラウドはジンジンする腕を押さえて気を失ってしまった。
 
気が付いたのはクラウドの今の自宅だった。
「何が起こったんだ」
クラウドが頭を抑えながら見回す。隣にはティファがいたが,まだ気を失ったままだった。
「気絶している人間を運ぶのは大変だったぞ,と」
レノとルードがいた。
「あんた,娘はどうした」
ルードが尋ねた。クラウドには応えられなかった。
「手がかりになるがどうか分からんが,街で星痕症候群の子供ばかりを連れ去るという事件があった。もしかしたらあんたの子供も…」
クラウドは体中に電気が走ったような顔をした。
「そこはどこなんだ!」
クラウドはルードの肩を激しく揺さぶった。
 
 第七話 怒りの日 
 
一面が青く輝く,夜の忘らるる都の湖のほとりにカダージュの三姉弟,そして誘拐された子供達が集まっていた。セレネはロッズに体をつかまれていた。
ヤズーとロッズを従えたカダージュは熱弁をふるっていた。
「みんなよく来てくれたわね。これでみんな集まったわ」
カダージュはご機嫌だった。その足元にはクラウドの部屋からロッズがかっぱらってきたマテリアがある。
カダージュはその中の一つを取ると,左手にはめ込んだ。
マテリアはすうっと,カダージュの手首に溶け込んでいった。
カダージュの小さな体から黒煙が上がる。
「みんなは私達の兄弟よ。さあ,みんなで星に復讐するの。だからあなた達の病気を治してあげる。さあ,付いて来て」
カダージュは湖の中に入っていった。
浅い湖だが,小柄なカダージュは腰まで浸かった。
カダージュは湖の水をすくって飲んだ。
すると,それを見ていた子供達もおっかなびっくりで水に入る。
そして次々に水を飲んでいく。
「ダメだよ,飲んじゃダメ」
セレネが彼らに向かって叫ぶが聞くものはいない。もう,子供達は洗脳されているのだ。
 
 第七話 裏切り者はどちらだ
 
その頃,クラウドは忘らるる都に向かってバイクを走らせている。
もうすぐ湖に着くだろう。
突然,クラウドの背後で声がした。
「そろそろ来る頃だと思ってた」
聞き覚えのある声がした。
そう,この声はエアリスだ。
確認しようとして振り向こうとすると,
「おっとこっちを見るんじゃねぇ」
と注意された。
「…それでお前はどうしたいんだ」
「みんなを助けたい」
クラウドは応えた。
「お前らしいな」
「こうすることでしか,俺は罪を償うことはできない」
「罪ってなんだよ。お前がどんな罪を犯したって言うんだ」
「…」
クラウドはとうとう背後を見た。そこには誰もいない。
「俺は運転しながら夢を見ていたのか…?」
 
クラウドのバイクがそろそろ湖の辺りまで近付いてきたとき,物騒にも銃撃を受けた。
クラウドはこのありがたくもない歓迎を避けながらバイクを運転する。
ヤズーとロッズがこちらに向けて散弾を発砲しているのだ。その2人の間からゆっくりとカダージュの姿が現れた。
クラウドは臨戦態勢を整えようと思い,剣を引き抜こうとしたとき,カダージュが刀を持つ手の反対側の手をタクトのように振って合図した。すると,クラウドのいる四方八方から子供達が次々に飛び降りてきた。
クラウドは子供に接触しないように止まろうとしたがバランスを崩してバイクから落ちた。立ち上がろうとしたクラウドの喉元に向かってカダージュが刀を向けていた。
「ねぇみんな聞いて。この人はねぇ私達の兄さんなの。でも,裏切り者なの」
「子供達を返してもらおうか」
「パパ!!」
セレネの声を聞いたクラウドははっとして底から立ち上がり,剣を拾い上げ,構える。
クラウドの剣とカダージュの刀が重なり合った。常人には決して見切ることの出来ない速く激しい殺陣が続いた。さらにはヤズーのガンブレードの射撃が雨のように撃たれ,クラウドを狙う。そこへロッズの膝蹴りが飛んできて,クラウドはたった1人で3人を相手にしなくてはならない。
ロッズの動きはほぼ高速で,まるで分身の術を会得したようにあちこちに移動してクラウドを翻弄する。
その間にもヤズーの銃撃はやまない。
クラウドは剣を二刀流の剣に切り替え,二人の相手をする。クラウドは一度大きくジャンプして距離を置こうとしたが,その先にカダージュがおり,不敵な笑みを浮かべて刀を振り上げる。
―くそっ,埒が明かない!!
このままでは本当にきりがない。
そのとき,カダージュに向けて何者かが発砲した。カダージュは舌打ちをしてこれを回避するが,銃撃は執拗にカダージュを追う。クラウドの前に真っ赤なマントが浮いている。まるでゴーストのようにマントは翻り,カダージュの攻撃を受け付けない。カダージュを援護する為に攻撃を仕掛けるヤズーとロッズの間をすり抜け,ゴーストマントはクラウドとセレネを包み込むとどこかへ飛び去った。
 
 第8話 少女達
 
クラウドは自分のふがいなさを嘆いていた。結果は,イーブン,イーブン。しかし子供達を取り返せなかった。完全に負けだ。
「パパ,ティファがあの人達に襲われたの」
「ティファは無事だ」
クラウドはセレネの肩に手を置いてから,クラウドの背後にいる赤いマントを羽織り,赤いリボンを付けた黒髪の美少女ヴィンセントを振り返った。
「一体これはどういうことだ」
「この辺りは私のお散歩コースなの。そしてこの辺りはカダージュ達のアジトになってしまっているわ」
ヴィンセントはうつむいてクラウドの腕をつかんだ。
「クラウドも星痕を発症しているのね」
「まぁな」
「星痕はね,体に入った異物を除去するときに出来る反応ですって。風邪の発熱と同じよ」
「異物?異物って…」
「ジェノバ細胞の遺伝子よ」
そういわれてクラウドは自分の手のひらを見つめる。
暗い表情のクラウドの話題を変えようとしてヴィンセントが声を掛ける。
「そうそう, ツォンとイリーナがあの子達につかまっていたわ。拷問されていたみたい。助けてあげたけどね」
「なぜ?」
「あの2人,ジェノバの首を手に入れたらしいの。だからカダージュが必死にさがしてるわけね。自業自得といえばそうだけどちょっとかわいそうよね」
「なぁ,ヴィンセント。頼みたいことがある」
「何?」
「セレネを家へ連れて帰ってくれないか?」
「パパ?」
「ごめんなさい,それはできないわ」
ヴィンセントは独り言のように小さな声で言った。
「なぜだ」
「あなたを見殺しにするとシドに,みんなに怒られる」
ヴィンセントの目はクラウドの心をかんたんに見透かしていた。
「背負いきれないから,何もかも放り捨てて逃げるの?生きることをやめたら楽になれるの?そんなのカッコ悪いし,ずるいじゃない」
クラウドはヴィンセントにやり込められてうつむいてしまった。
ヴィンセントはクラウドたち人間と違って死ねない体。どんなに辛いことがあっても,どんなに嫌なことがあっても,死ねる人間は彼女より幸せだろう。
「…悪かった。気が付かなかった」
「いいのよ,私,気にしてない」
クラウドは無言で座っていたが,やがて重々しい口調で,
「なぁ,罪って…償えると思うか?」
ヴィンセントは少しだけ白い歯を見せた笑顔で,
「…やだ,私に聞かないで」
「そうだよな,ごめん。…よし,分かった。
…セレネ,帰ろう」
「うん!」
セレネはクラウドの元へ走り出した。
「やれるだけのことはやってみるよ」
 
 第九話 カラクリ・クリカラ
 
ミッドガルの中央公園に神羅が建てた記念碑がある。あの事件の犠牲者を悼むための碑である。
その記念碑の周りにあの誘拐された子供達が囲んでいた。洗脳されているため,子供達は周りの大人たちの呼びかけにも応えない。
大人たちは口々に叫ぶ。
「子供達は一体どうしたんだ!!」
「呼びかけても返事しないぞ」
「これは一体どういうことだ」
その様子を見ていたのはヤズーとロッズだった。
ロッズは大きく伸びをして,
「あーあ,うるせぇな。姉ちゃん,頼むわ」
と,ヤズーに顔を向けた。
ヤズーは目を閉じて口元に笑みを浮かべてうなずいて,片手を突き出した。
黒い煙が現れ,やがてそれはあの漆黒の獅子の形になった。
獅子はいたるところに現れ,広場を暴れまわった。
街の人々は逃げ惑い,大混乱だ。
ヤズーとロッズはその様子を面白そうに眺めている。彼ら姉弟の残酷さは,その目的が人々の殺傷ではなく,混乱して逃げ回る人間達を面白がって見ることにあるようだ。
雲の子を散らすように人が離れた後,ロッズが記念碑の錠を開け始めた。
「何やってんの!?」
レノとルードがやって来た。
「何ってこの記念碑を壊すのさ」
ロッズが言った。
「ママは,ここに隠されてるんだろう?」
「ああそう。なるほどね。でもハズレです」
レノがおどけて言った。
「大体俺達でさえ知りません,と」
するとヤズーが,
「あら,お兄さん達って案外会社から信頼されていないのね」
と,嘲笑的な声で言った。
「なんだとー!!子供だと思って言わせておけばー!!」
かっとなったレノが突っ込んできた。
 
 第十話 苦い夢
 
 ミッドガルを見下ろす建設中の高層ビルのテラスにカダージュと車椅子のルーファウスがいた。
「カダージュ,一つ聞きたい」
ルーファウスが尋ねた。
「何?」
「君達はジェノバ細胞を手に入れて元に戻ることをリユニオンと言ったが,一体それはどういう風になるということか教えてくれないかな」
「ああ,そのこと」
カダージュはクスクス笑って,
「彼女が…帰って来る」
ルーファウスは今はあまり口に出したくないかつて自分を捨て,兄に奪われた美しい婚約者の名前を口に出さざるを得なかった。
「セフィロスか」
「そうよ」
「あれはかわいそうな女だった…」
「そうらしいわね」
「知らないのか?」
「知らない。ただ,気配を感じてるだけ。ものすごくイライラしてる。どうして自分がこんなめにあわなくちゃいけないの,どうして自分は幸せになっちゃいけないのってものすごく怨んでいる,ねたんでいる,この世界を」
「…」
「ママはセフィロスと私,どっちが大事なのかずっと気になってた。でも,いまはどうでもよくなったわ,そんなこと。どっちにしても私はママの為にこの星をつぶすしかないのよ。ママは長い旅を続けてやってこの星にたどり着いたの。だけどこの星はママには冷たかった…。どんなことがあっても私はこの星に復讐してみせる。それは妹も弟も同じ思いよ」
「…かわいそうだな,思念体よ」
ルーファウスが初めて語り始めた。
「思念体ゆえに人の肌のぬくもりを知らぬ。肌と肌が触れ合うこと,人と人との手のぬくもり,それを知っていたセフィロスは少なくとも君たちよりは,ずっと幸せだったかもしれないな」
カダージュのグリーンの目に少し動揺の色が浮かんだ。自分がセフィロスより劣っているとか,不幸だとか,考えたくなかった。
「…そう。…やっぱり私たち,どうしたってわかり合えないみたいね。これでゲームオーバー」
カダージュの空に向かって突き出された手から青緑色の,鋭いレーザービームのような光が走った。
 
 第十一話 災厄召喚
 
街はいよいよ激しいパニックに陥れられた。表の暴動を知って,ティファが走ってきた。そこでみた光景は恐ろしいものだ。
暗雲が立ち込めた空から雷鳴と共に背中に翼のある巨大なモンスター,バハムート震が現れた。
「やべっ,こんなのが出たら太刀打ちできねーぞ,と!!」
レノが飛び上がった。
「とりあえず子供達を!!」
ルードが言い,2人は記念碑の回りのまだ正気に戻らない子供達を連れて逃げ始めた。ティファも子供達を連れて逃げる。
「バハムートを召喚するなんてカダージュ姉ちゃんも相当キレたみてぇーだな」
と,ロッズが嬉しそうに言う。
するとヤズーは,
「何をグズグズしているの。私たちもあの2人を追うわよ」
と,たしなめた。
バハムートの吐く爆風に吹き飛ばされたレノとルードをヤズーとロッズが追った。
「…ざ,ざっけんなよぉっ」
いきなり起き上がったレノがヤズーに飛び掛った。しかしヤズーの動きは速く,タークス最速と呼ばれたレノですら追いつかない。レノの攻撃をかわし,ビルの上に着地する。
「私達はママに会わせてくれればそれでいいのに」
一方でルードはロッズに攻撃するが,どちらも勝負が付かない。
「ジェノバの首を手に入れてどうするつもりだ」
「これからのことはママが決めてくれるんだ」
「ママママってさぁ!!たかがジェノバの首だろう!」
レノの言葉にいつも陰鬱で冷静な美貌のヤズーが初めて真っ赤な顔をしてその声を荒くした。
「ママの事をそんな風に言わないで!!」
と。
自分よりずっと若いだろう少女に強く言われて大人気ないと思ったのか,ルードが神妙な顔つきで,
「悪かった。謝罪しよう」
と言った。
レノも頭をかいて,
「そうだな,ルード。…って何で俺が謝んなきゃなんねぇんだよ!!」
 
 第十二話 彼らのリユニオン
 
その頃,ティファは逃げ遅れた子供を連れて逃げ回っていた。
しかし,バハムートはそれを見逃さなかった。バハムートの鋭い爪がティファに襲い掛かろうとしたとき,大きな手がティファの肩をつかんで後ろへやった。
「任せろ」
その大きな手は腕に装備された機関銃をバハムートに向けてはなった。
「バレット!!」
あの戦いの後,本業に戻り,フリーランスのライターになっていたバレットだ。
バレットの銃撃から逃げるように飛び上がるバハムートに食らいついているのはレッド]Vだ。そのレッド]Vの頭にはケットシーも乗っかっている。
動き回るバハムートに振り落とされまいと必死にしがみつくレッド]Vの背後から巨大な手裏剣が飛んできてバハムートの胴体に刺突した。
ゆっくりとパラシュートに乗ったユフィが着地する。
ユフィはよろけながらも立ち上がると,ティファに,
「マテリア泥棒は誰?」
と聞く。
「悪者よ」
「よっし」
ユフィはバハムートめがけて走っていく。
浮上したバハムートを槍で突き刺して,シドが降りてきた。
「待たせたなっ」
人懐こそうな好男子の笑顔がティファに向けられた。
「それじゃ,また後でなっ」
と,シドは空に向かって大きくジャンプした。
そのティファの横を真っ赤なコートのヴィンセントがよろよろとやって来た。
「…眠い」
ティファはみんなが帰ってきてくれたことを初めて知った。
辺りを見回すと,バイクの音が聞こえる。
クラウドの姿が見える。
ティファの横へバイクを止めると武器を出しながら,
「セレネは家だ」
と言ってバハムートを見上げる。
「行くぞ」
クラウドの声を合図にティファがバイクの後ろに乗った。
いよいよ本格的な戦闘が始まった。
バレットが高い鉄骨のうえからバハムートに銃撃をくわえる。
シドはバハムートの頭に槍を突き立てる。
「危ないっ!」
鉄骨にぶち当たりそうになるシドをレッド]Vがくわえて遠くへ運ぶ。
ねむそうな目をしていたはずのヴィンセントはジャンプでバハムートの肩にとまると,頭部めがけてかたい皮膚に銃弾の雨を降らせる。
よろけたバハムートを今度はユフィが手裏剣で攻撃する。頭にきたバハムートは再び爆風を吹く。
バレットのいた鉄骨の足元が崩れ始める。
ようやくクラウドが現れ,バレットを安全な場所へ運んだ。
クラウドは二刀流の剣を身構えた。
飛んだ。
バハムートの頭上に下りたクラウドはバハムートを斬りつける。
痛みで暴れるバハムートはクラウドめがけて突進するが,水を得た魚のクラウドは,バハムートの頭突きなど,全くヒットしない。
クラウドは器用にバハムートを誘導しながら攻撃していく。
これまでか,と観念したバハムートは空に向かって浮上した。
 
場面は再び建設中のビルに戻る。
混乱する街を見下ろし,カダージュは本当に愉快そうだった。
「楽しいわね!次は何を召喚してみせましょうか」
ケラケラと笑うカダージュの隣のルーファウスは無言だった。
そして,車椅子にいつも乗っていたはずのルーファウスがすっくと立ち上がった。
そしてベランダの方へ歩み寄ると,かぶっていた白い布を初めて取り払った。
なんと包帯もコルセットも全て擬態で,そこには,以前と変わらない美男子の彼の顔があり,その手には小さな箱があった。
「ママ!もしかしてママ?」
カダージュが気付いたときにはもう遅かった。ルーファウスはふふ,と笑い,
「君は親不孝者だな」
と,箱を投げ捨てた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カダージュの絹を裂くような声が響き渡った。
 
その頃,クラウドは逃げようとするバハムートを追いかけようとジャンプする。
そのクラウドの腕をバレットがつかんで,
「いけぇっクラウド」
と,高く高く放り投げた。クラウドはさらに高く飛び,バハムートを斬りつけ,再び落下する。今度はシドがクラウドの体を野球のバットのように槍を振り上げてもう一度飛ばせる。さらにそこからレッド]Vが体当たりしてクラウドを吹っ飛ばす。
重力に逆らってクラウドの体はどんどん高くなる。地上が遠くなる。
気が付くとユフィがそこにいて,クラウドの片足をつかむと,
「それぇっ」
とさらに飛ばす。
すると今度はヴィンセントがクラウドが上がってくるのを待って,クラウドの手をつかみ,
「飛んで!」
と放り上げた。
クラウドはどこまでもどこまでも飛んでいく。
「まだまだぁ!まだよっ!」
ティファがクラウドの体をつかむと軽々と放り上げた。
クラウドの体は加速し,やがてその体は一縷の青い流星となった。
クラウドと言う厄介な追っ手を退けるため,バハムートはさらに大きな激しい爆風を吹いた。クラウドは二刀流の剣を一本の剣に合わせると,その爆風の中へ突進した。
激しい風圧と熱の中をクラウドは一本の剣を頼りに突き進んだ。
そのとき,クラウドの目に人の姿が映った。―エアリス!
エアリスはゆっくりとクラウドの体を抱え,「ブチかませ!」
と放り投げた。
クラウドの体は爆風を抜け,バハムートの前に現れた。
もはや流星と化したクラウドは剣を振り下ろすと,ガスバーナーのようにバハムートの体を縦に焼き切った。
バハムートは巨大なビルが崩れる如く地上に落下していく。
「やったよ!!」
ユフィが嬉しそうに飛び跳ねる。
それから少し遅れてクラウドがゆっくりと落下してくる。
「クラウド,やっと戻ってきたね」
ティファの言葉がクラウドは嬉しい。
 
 第十四話 地獄のモーターサイクル
 
正気を失ったカダージュの腕のマテリアが爆発し,ルーファウスに火の粉が飛んできた。ルーファウスはこれを避けようとしてベランダから落下した。
落下しながら懐から出したハンドガンをカダージュに向かって発砲する。
「ママ!!」
ルーファウスの流れ弾が大切な母親に当たってはたまるかとカダージュも追うように落下した。ルーファウスは標的をカダージュからジェノバの首が入った箱に変えた。
鈍い音がして箱に弾が撃ち込まれた。落下するルーファウスの姿を見つけたレノとルードは大騒ぎだ。
「社長!!」
そのとき,カダージュ達に捕まって拷問を受けていたところをヴィンセントに助けられたはずのイリーナとツォンが現れた。
「ツォンさん,社長が!」
ツォンは目の前に向かって息を吹きかけた。するとたちどころにルーファウスの体の真下までにふわふわの粉雪のクッションが出来上がった。
「社長!」
レノとルードが駆け寄った。
ルーファウスは一命を取り留め,立ち上がった。
カダージュはなんとか箱を受け止めて着地したものの,箱は少し壊れて,中から培養液が滲み出している。
そして目の前にはバイクに乗ったクラウドの姿が見えていた。
「くっ!」
カダージュは箱を抱えてバイクに乗って逃走した。とうとうかつての追うものと追われるものが逆転した。
カダージュはクラウドから逃げる為に封鎖中の高速道路へ上がった。
箱を抱えるカダージュを守るため,クラウドの両脇からヤズーとロッズがそれぞれバイクに乗ってクラウドの妨害をする。
だがもう迷いのないクラウドにはどんな攻撃も恐れない自信がある。
ヤズーの銃撃をことごとく剣ではじき,ロッズが腕輪を使って力技をかけてきてもそれを押し返していく。
バイクはやがてトンネルに入る。
クラウドは片手で剣を振り回しながらカダージュを追う。カダージュはすでに遠く離れた場所にいた。
 
その頃,トンネルの出口にレノとルードが立っていた。
二人は手にヨントリー烏龍茶の缶を持っていたが,中身は烏龍茶ではない。
「なぁ,ルード,これ,本当に効くのか?」
「神羅の技術を結集して俺が作った。威力はともかく,見た目はかなり派手だから,目晦ましとしてはベストだ」
無口なルードは,自分の功績を尋ねられて少し雄弁になる。
「お,来た来た」
トンネルの向こうからクラウドの姿がだんだん大きくなる。
ルードとレノはすぐに間を開けてクラウドのバイクを通す。
2人の間をクラウドのバイクが突風のように通り過ぎていく。
その後をすさまじい爆炎が起こった。
その轟音を遠くから見ていたカダージュに向かって,クラウドのバイクが疾走してくる。
「!!」
カダージュはさらにアクセルを廻して逃げる。
「逃がすかぁぁぁぁぁ」
クラウドは剣を振り上げながらカダージュに追いついた。
カダージュも刀を抜くと,2人の刀は激しく叩き付け合った。
最初の頃に比べてすっかり迷いのなくなったクラウドの剣はカダージュを圧倒した。
怖くなったカダージュは戦闘を離脱して逃走した。しかしそこはあのスラムの教会の中。行き止まりだった。
 
 第十五話 サイレントヴォイス
 
バイクを降りたクラウドが歩いてくる。
「…ここまでだな。観念した方がいい」
バイクに乗ったまま,箱を抱きしめたカダージュは真っ青になっていた。
手負いの生き物ほど危険なものはない。
カダージュはバイクに乗ったまま,手首のマテリアから雷を放った。
クラウドはこれを避けるが,運悪く倒れた教会の柱の下敷きになってしまった。
「これで終わり」
カダージュはクラウドを見下ろしたまま,片手を挙げた。
そのとき,教会のドアが開いて,セレネが現れた。
「パパ!」
セレネは両手で胸のペンダントを握り締め,祈った。
―神様,ママ,どうかパパを助けて下さい!
奇跡というものは偶然と同等ではない。偶然と似て非なる神の御業である。
セレネのペンダントトップが光り輝き,やがてペンダントトップは光と共に竪琴に変わった。彼女の髪と腰からは鮮やかな羽根がその翼を広げ,まるで彼女の母親の進化した最後の姿,“あの(セーファ・)姿(セフィロス)”にとてもよく似ていた。
セレネは導かれるように竪琴を鳴らすと,突如溢れ出でた薄紫色の水流がカダージュに襲い掛かった。
「きゃあっ!!」
カダージュは驚いて教会から逃走した。
セレネは元の姿に戻り,ペンダントトップも元の姿に変わった。
「セレネ,今のは?」
「…分からない。パパを助けてってお祈りしたらこうなったの」
クラウドは気付いた。やはりセレネはクラウドの娘であると同時にセフィロスの娘でもある。普通の人間のはずがなかった。
そのとき,2人の上に雨が降り注いだ。雨は優しく降り注ぎ,クラウドの星痕が消えていく。
クラウドの耳にエアリスの声が響く。
「行くぜ,クラウド」
クラウドはセレネに必ず迎えに来るからここに隠れているように約束し,バイクにまたがった。
今度こそ,カダージュを捕まえる。もう絶対に好きにはさせない。
 
 第十六話 荒野の決闘
 
クラウドはビルの墓場のような所でバイクを降りた。
そのクラウドの姿を高い所からカダージュが見下ろしている。
「これ以上大人をからかうと痛い目を見るぞ」
カダージュは,
「せっかくママに会えたのに。また邪魔するのね」
クラウドはそれには応えず,剣を構えた。
これまでに類を見ない激しい戦いだった。カダージュは三つ子の中でも最も小柄な体だったが,長子にしてリーダー,他の2人よりも桁外れに強かった。
短い片手持ちの刀一つでクラウドの鉈の如き大剣を軽く弾く。しかも小柄な体を生かして身軽なので,なかなか剣が届かない。
その様子をシドの飛行艇が上空から見ている。
「早く助けに行こうよ!」
ユフィが大騒ぎする。
「ああ,待てよ,着陸までに時間が掛かる」
操縦棹を握ったシドが叫ぶ。
「…ね,1人で戦わせてあげたら?」
ヴィンセントが言った。
「クラウドは1人で戦いたいと思ってるわ」
「どうして?」
ユフィは気になるらしい。
「あの子達はね,セフィロスの思念体なの。今はまだ雛鳥のようなものだけど,きっと放っておけばセフィロスと同じようになるわ。クラウドはもうずっと1人で責任を負ってきたの。だからそうっとしておいてあげたいの」
「ややこしいヤツだな」
と,バレット。しかしその声色に悪意はなかった。
クラウドは自らの背負った罪や責任に忠実であろうとした。
これ以上災いの火種を大きくするわけには行かなかった。
その思いがここまでクラウドを立ち直らせ,強くさせた。
―絶対に負けるわけにはいかないんだ。それは俺のためじゃない。みんなのため,この星のために…。
しびれをきらしたカダージュが高く舞い上がる。
クラウドは下から剣を構える。
「いやぁあああああああああぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
2つの刃が火花を散らせて交錯した。
倒れたのはカダージュの方だった。
カダージュは転がり,ビルの崖っぷちから落ちそうになる。片手にはあの箱を抱えたままだ。
 
 第十七話 超破壊的彼女
 
宙ぶらりんで必死に手を伸ばしてぶら下がるカダージュにクラウドが歩み寄った。
そしてクラウドが剣を一振り。
クラウドが斬りつけたものはカダージュではなく,ジェノバの首の箱だった。カダージュの手から叩き落としたのだ。
カダージュは落ちていく箱に向かってダイブしていった。
そして箱を手に取ると,
「本当のリユニオンを見せてあげる」
と,箱を自分の胸に押し当てて落下していった。
「!!」
クラウドは嫌な予感がして,カダージュに向かってダイブした。
カダージュの体が激しい電流に包まれた。
クラウドはカダージュに向かって渾身の一撃を与えるために,剣を振り上げた。
剣が強く当たったとき,クラウドは目の前の光景を疑った。
クラウドの一撃を抑えていたのはあどけなさの残る少女の指が持つ打ち刀ではなく,しっとりと華奢な大人の女性の指が持つ長い刀身だった。刀越しに見えるのは雪のように輝く美しく長い銀髪,長く豊かなまつげ,パールピンクのシャドウの入った,くっきりとした二重,柔らかく淡いエメラルドグリーンの瞳,グロスの入った赤いルージュを引いた口元…。自慢の黒いロングコートの下はマイクロミニスカートとロングブーツ。
クラウドが世界の誰よりも良く知っている,この世で最も美しく残酷な女神の姿だった。
「…クラウド,逢いたかったわ…」
魅惑的な赤い唇からあの鈴のようなソプラノが聞こえる。辺りに立ち込めるのはフローラル系の香水。
セフィロスが軽く刀を振っただけで,クラウドの体は吹っ飛んだ。
慌てて体勢を立て直すクラウドの前にまるで翼を持つようにセフィロスが塔の上に立って見下ろしている。
「クラウド,星痕は消えたの?」
「一体何をやらかしたいんだ」
「どうして怒るの?また逢えたのに」
セフィロスはクラウドが何故怒るのかわからない,と言った様子である。歓迎してもらえると思ったのだろうか。
「なぜ現れた」
「ひどいわ。どうして冷たいことを言うの。私はずっと貴方に逢いたくて寂しい思いをしていたのに。やっと逢えたのに,貴方は私の事をまたのけものにするのね」
クラウドは頭が痛くなった。セフィロスはいつもこうだ。星を吹っ飛ばすほどの騒動を起こしても,どうして周りがこんなに自分を責めるのかと思っている。生まれたときから完全無欠のソルジャーとして育てられてきたセフィロスは,頭は悪くないが,彼女の頭の中に反省とか自重という概念はないらしい。むしろ彼女はそうなるように育てられてきた。眉根一つ動かさず敵を斬り捨てられるソルジャーになる為に。
質問を変えるしかない。
「俺に用があったんじゃないのか?」
「そうなのよ」
セフィロスは得意の口の端を上げる,笑顔を作った。ティファが嫌っていたあの媚び笑いだ。
「私ね,いい事を思い付いたのよ」
どうせろくなことじゃない,とクラウドは知っている。しかし聞き出さなければ,人類は,この星は,救えない。
「いい事って何だ?」
「すごくいい事よ。この星を船にして宇宙を旅するの。私のママが昔そうしたように。でね,新しい星を見つけて私達親子3人で新しい生活を始めるの。星痕はその為に星を動かすエネルギー。だから私は世界中に自分の細胞因子をばらまいたの」
この星痕事件のきっかけはセフィロスのくだらないわがままによるものだった。いつも同じこと。セフィロスはちっぽけなくだらないわがままのためにいつも多くの人を振り回す。罪の意識なんて,ない。
「俺達親子3人がそこで新しい生活を始めるとして,この星は,他の人達は,どうなる」
「知らないわ。だって私と何の関係もないんですもの」
お約束の答えだった。
クラウドは言いたくないことを言わなくてはならなかった。
「セフィロス,…やっぱり俺はお前を倒さなくちゃならない」
クラウド重く思っているよりもセフィロスはその言葉をかなり軽く受け止めているらしく,
「そう。出来るものならやってみて」
と,まるでボール遊びを始めるような気楽さで言った。
 
 第十八話 願いと祈りの言葉
 
暗雲が立ち込めていた。
時々稲光が起こり,空はいよいよ陰鬱さを増していった。
クラウドが向けた一閃をセフィロスは軽く受け止めた。
力の差は歴然である。
セフィロスの目にとまらぬ刀の振りをクラウドは受けるのに精一杯で有効的な攻撃を繰り出すチャンスもなければ,セフィロスにその隙はない。
「うふふふふ」
必死のクラウドに対比してセフィロスは全くの余裕でおもしろそうに笑っている。
クラウドが体勢を崩したとき,セフィロスは刀の真空刃でクラウドを吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされ,クラウドはビルの壁に激突した。
しかし立ち上がり,すぐにセフィロスに向かう。
「少しは強くなったみたいね。どうしたの?」
クラウドの必死の形相に比べて,セフィロスは面白いゲームを楽しんでいるように見える。
翼はなくてもセフィロスは自在に空を飛び,クラウドを牽制する。
クラウドはもう何年かぶりにこの敗北の予感を感じた。
やはりどうあってもこの世に誰一人,たとえこのクラウドでさえも,セフィロスにはかなわないのか。
クラウドの心が揺らぎかけたそのとき,
「つかまえた!」
という無邪気な声がして,クラウドの右肩に激痛が走った。
暗雲の元,クラウドの右肩には,セフィロスの正宗が深く刺さっていた。
刀を持ったセフィロスは少し怒っていて,不思議そうな顔をしている。
「クラウドにとって一番大切なものって何?」
クラウドは痛みの耐えながら,セフィロスの顔を見上げた。
「大切でないものなんて…ない。この世界も,人も,この街も,仲間も,…そしてお前も」クラウドは自ら刀に手を当て,引き抜いた。
「分かってくれ。俺はティファとセレネとやっと3人で新しい家族になれたんだ。今お前がここに現れたら…セレネがかわいそうだ」
「嫌,私,貴方の言っていること,分からない」
セフィロスは長い髪を振った。
「…頼む,分かってくれ」
「分かってくれ,ですって?貴方は私を捨てて新しい生活を手に入れたけど私は?行くところなんてないのよ」
セフィロスの言葉にクラウドは返す言葉がなかった。
確かにセフィロスがそこに存在する限り,星は災厄にみまわれる。しかしそのセフィロスはどこに存在すればいい?
「もうずっとライフストリームの中で私は貴方の事,私の赤ちゃんの事をずっと探していたわ。気配は感じることができたけれど,その姿を見ることはできなかったの。もうあんなに辛く惨めな思いをするのは嫌なの。クラウドには私のそんな気持ちは分かる?」
「…だよな。ごめん,分からない。俺が悪かった」
クラウドはセフィロスの前に両手を広げた。
正宗を持ったまま,クラウドの肩に飛び込むセフィロスの背中をクラウドはそっと抱きしめた。
「だから…少し待ってくれ。俺が曲がりなりにも子供を育て上げて,人としての役目を全うしたら…そのときは…一緒に暮らそう。…それまでは思い出の中でじっとしていてくれるか?」
セフィロスはまだ首を振っていた。
そしてクラウドの体から静かに離れると,ふわりと宙に浮き上がった。右肩には美しい片翼の天使の羽が生えていた。
「私は…私は絶対思い出になんかならない。必ず貴方と,私達の子供をこの星から取り戻してみせるわ」
翼はセフィロスの痩せた体を包み込み,やがて無数の羽根となり,砕け散った。
粉雪のように降る羽根の中から,ゆっくりとカダージュが落ちてくる。
 
 第十九話 愛と苦しみの輪舞
 
 クラウドは落下するカダージュの体をしっかりと抱きとめた。
「おい,大丈夫か」
クラウドは気休めの言葉をかけるが,もう大丈夫ではない。
セフィロスにエネルギーを吸い取られ,ぐったりと衰弱している。
カダージュの耳に声が響く。
「カダージュ,もう,頑張るの,やめろよ」
それはエアリスの声だったが,カダージュはエアリスを知らない。ただそっと優しく語り掛けてくる男の声にただ,涙が流れた。
「…ママ」
カダージュは手を空に向かって広げ,やがてその手は,その体は,霧となって消えていった。
少女の体は完全に消えてしまったのだ。
クラウドは哀れな少女の素性を嘆いてやることしか出来なかった。
その場を静かに立ち上がるクラウドの背中に痛みが走った。
背後からヤズーとロッズの2人がクラウドの背中を刺していた。
「まだ,終わらせないわ…」
と,ヤズー。
「姉ちゃんをよくも…」
と,ロッズは涙をボロボロこぼしている。
しかしかわいそうにこの2人もまたボロボロで,もうこれ以上の事は出来なかった。クラウドはもう抵抗もしなかった。
ヤズーとロッズもまた,その場に倒れこみ,姉と同じように霧になって消えてしまった。
「…終わったのか?」
クラウドは肩と背中の傷を庇いながら辺りを見回した。
雲は消え去り,明るい空が広がった。
その事を知ると,急にクラウドもまたぐったりと倒れ,眠るように気を失った。
 
 第二十話 再び現実へ
 
眠るクラウドの耳元で誰かの声がする。目を開けることができないので確認していないが,
きっと2人いるだろう。
「あーあ,またここに来てるよ,コイツ。こりねぇなぁ」
この声はエアリスだ。
「ハハハ,お前が恋しいんじゃねぇの」
笑っているのはザックスだ。
「バカ言うなよ。男同士で気味悪い。さっさと帰れよ」
「だとさ。ここにはお前の居場所はないってことだな」
ザックスの声が聞こえてしばらく経ってから,クラウドはようやく目が開くようになった。
クラウドをたくさんの子供達が覗き込んでいた。
あの星痕症候群の子供達だ。
その中の1人が,
「やったぁ,クラウドが目が覚めたよ!」
と歓声を上げた。
クラウドは教会のエアリスが降らせた雨で出来た池の中に浮かんでいた。
ゆっくりと起き上がって周りを見回す。
子供達,仲間達,そして町の人たちがクラウドを囲んでいる。
クラウドがなんと声を掛けていいのか分からないでいると,セレネが,
「パパ。まだ星痕が消えない子達がいるんだよ」
と教えてくれた。
クラウドは子供達を1人ずつ池の中に招き入れ,水で子供達の痣を濯いでやる。
すると,子供達の痣はたちどころに消えてなくなった。
子供達の次は大人だ。クラウドは若者から年寄りまで,彼らの痣を濯いで洗い落としてやった。
「クラウド,やったね」
ティファが声を掛けた。
「ああ」
「やっぱりクラウドは最高だね」
「それほどでもない。アイツが…エアリスが助けてくれなかったら俺は…」
「分かってる。彼はブツブツ怒りながらでもいつも私たちの傍にいてくれてた」
ティファの言葉にクラウドは,
「ああ」
とうなずいた。
レッド]Vがクラウドの元へ走ってきた。
「クラウド,表に出て来てよ」
クラウドはセレネを抱きかかえると,言われるままに教会の外に出た。
教会の周りには街の人間が大勢集まっている。皆クラウドの姿を見ると,手を振ったり叫んだりしていた。
「クラウドー」
「クラウドありがとー」
「クラウドこっち向いてー」
人々の歓声とカメラのフラッシュにただクラウドは驚いてキョロキョロするばかりだった。
しかしその群衆の中に明らかにクラウドがよく知っている2人がいた。
エアリスとザックス。
驚いて目を見張ると,ザックスは無言で片手を上げて微笑んだ。
エアリスは,クラウドに向かって何かを言った。
唇の形でクラウドはすぐに分かった。
「もう,大丈夫だな」
と言っている。
クラウドは口に出す代わりに無言で大きく首を縦に振った。
エアリスとザックスはそれに満足すると,軽くクラウドにうなずいて,すうっ,とその姿を消していた。
「ありがとう」
クラウドは心の中で手を合わせて呟いた。
 
その頃,ルーファウスの手首の星痕も完全に消えていた。
元に戻った手を見つめながらルーファウスは独り言を言った。
「…また,兄さんに助けられたな」
 
 第二十一話 今そこにある幸せ
 
今日の夕食はクラウドの好物のチンジャオロースだ。かつては,セフィロスによく作ってもらった。
「ピーマンも残さずに食べるのよ」
と,セレネに声を掛けるティファ。
大好きなはずのチンジャオロースを食べながら雨雲のような顔をしているクラウドをティファが,
「どうしたの?味,変?」
と見つめる。
「…いや,少し考え事をしていたんだ」
クラウドが箸を止めて言った。
「あの三つ子は思念体だったから,体を持たない。こうしてものを食べることも出来ないんだ」
「そうね」
「たとえばあの三つ子が普通に俺達と同じようにうまいものを食べたり,遊んだり,友達を作ったりできる体を持っていたら,あんなふうになっていただろうか」
「…そうだよね」
2人は黙っていた。
沈黙を破ったのはセレネの声だった。
「パパ…,ママが来たの?」
ティファが何か言おうとしたのをクラウドは止めて,
「どうしてそう思う?」
と聞く。
「教会から外を見ていたの。パパと一緒にママに似た髪の長い女の人がいたの。あれはママなの?」
クラウドは小さな,本当にかすかな声で,
「そうだ」
と言った。
「ママは私に会いたくないの?」
「そうじゃない。ママはセレネに会いたがっていた。だけどママは本当はここにはいてはいけない人なんだ。だからすぐに帰ってしまった」
「…?」
「いつか大きくなったら分かるときが来る」
「私もママに会える?」
「ああ,きっと,な」
 
 第二十二話 エクスマキナ
 
数ヵ月後。
クラウドは再び宅配業の仕事に戻った。その日も,一仕事を終えて戻って帰宅すると,自宅に大きなトラックが止まった。
ティファもセレネの手を引いて出てきた。
配達員が2人降りてきて,
「ストライフさんのお宅はこちらですか」
と尋ねる。
「ああそうだけど」
「お届けものです。どちらへ運びましょう」
と,奥からエアーキャップに包まれた木製の何かが下ろされる。
「これは何だ?」
「神羅カンパニー社長,ルーファウス神羅様よりお祝い品です」
クラウドとティファは意味が分からずぽかん,と口を開けていたが,臨機応変なティファは,
「えーっと,それじゃあ2階に運んでもらえますか」
と配達員を誘導する。
ぼーっとしていたクラウドだったが,とりあえず自分も2階へ上がる。
梱包資材を除き,かんたんな組み立てによって出てきたのは,立派な学習机だった。机の上には真っ赤なランドセルの入った箱もある。「良かったわね,セレネ,あなたの叔父さんからよ」
引き出しを開けると,中には鉛筆や消しゴムや筆箱やノートなどの可愛らしいデザインの女の子向きの筆記用具や,クレパスや色鉛筆,絵の具箱や習字道具まで,小学校で必要な道具が一揃え,入っていた。
クラウドは一番上の引き出しに封書を見つけると,中を読んだ。
『兄さんが助けてくれたことに対して何かお礼をしたいと思ったけれど,多分兄さんはどんな金も受け取らないだろう。頑固だからな。だがせめて叔父として姪の入学祝くらいさせてくれ。
それでは。
追伸―たまには古巣に遊びに来るといい             
          ルーファウス・神羅』
クラウドは手紙を閉じると,深いため息をついて,家をティファに任せると再び仕事に戻るため,バイクに乗った。
 
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