白雪姫
 
 
 神羅カンパニーという会社にスカーレットと言うとても美しい人がいました。
社員同士が集まるチャットでは,
『神羅で美人なのは誰?』
と書けば,誰もが
『兵器開発部部長のスカーレットだ』
と言いました。
しかし,あるとき,いつものように,
『神羅で美人なのは誰?』
と書くと,
『兵器開発部長のスカーレットも美人だけど,タークスの主任のツォンはその百万倍は美人だ』
と言いました。
すると他の人達も本当だ,本当だ,と言いました。
『スカーレットはもう年増だからこれからはツォンだな』
人間,どんな美しい人も年を取ればしわやたるみが出てくるのは仕方のないことでありました。

その頃,ツォンは前任のヴェルドに代わってタークスの主任になったばかりでしたが,烏の濡れ羽色の長い髪に真っ白い肌が雪のように美しかったので,神羅の社員さん達はツォンの事を白雪姫と呼んでいました。
ツォンはその姿形が美しいだけでなく,誰にでも優しく面倒見のいい人だったので,男性からも女性からも好かれていました。
スカーレットは,とてもとても腹を立てて,いっそツォンなんかいなくなってしまえばいいのに,と思いました。
スカーレットはある男を雇いました。
深夜夜遅くまで1人で残業をしているツォンのところに知らない男がやって来ました。
「あの,どなたですか?」
男は答えません。片手に持っている太い棒は武器なのでしょうか。
「キャー!!」
悲鳴がビルに響き渡りました。
 
翌朝,ルードが出勤してくると,信じられない光景に目を疑いました。
「誰がこんなひどいことを…」
ツォンが椅子に縛られて眉毛や口の周りにサインペン(油性)で落書きをされていました。
男が持っていた武器は極太サインペン(油性)でした。
ツォンはレノが出勤してくるまでに大急ぎでサインペン(油性)を洗い落として化粧を直しました。
 
その頃スカーレットがご機嫌でパソコンを開いて,
『神羅で美人なのは誰?』
とチャットのスレッドを立てました。
すると,
『やっぱりツォンだろ』
と答えが返ってきました。
『うん,ツォンかわいー』
『今朝も挨拶したら丁寧に返してくれた。やっぱり見た目も性格も美人だな』
 ますますスカーレットは腹が立ちました。

ルードはツォンに言いました。
「何者かがツォンさんを狙っているようだ。危ないからツォンさんは1人でいるときは内側から鍵をかけた方がいい」
そこでツォンは1人でいるときは司令室の鍵をしっかりかけてしまいました。
 
スカーレットは,今度は偽名を使ってツォン宛にお菓子を送りました。
 
中身は有名店のお取り寄せスイーツのマカロンが入っていました。
ツォンはとても喜んで,さっそくみんなを呼びました。
「これ,私知ってます。超有名な高級スイーツですよ」
とイリーナが大喜びして,最初に1個食べました。
すると,突然イリーナがおなかが痛いと騒ぎ出しました。
科学技術開発部門で胃を洗ってもらい,点滴をしたので,イリーナは下痢をしただけで一命を取り留めましたが,マカロンを調べると下剤が入っていることが分かりました。
「やっぱり誰かがツォンさんを狙っている。身に覚えのないものは食べたりしてはいけない」
ルードの言葉にタークスの全員が警戒していました。
 
ツォンがマカロンを食べていなかったことを知ったスカーレットは業を煮やして自分で行くことにしました。
 
とんとんとん。
司令室をノックする者があります。
ツォンは,
「どなたですか」
と声を掛けました。
「あたしよ,スカーレットよ」
とスカーレットは言いました。
「スカーレット部長。御用でしたらお呼びくだされば私の方からお伺いしましたのに」
ツォンは丁寧に頭を下げました。
「いいえ,いいのよ。実はね,今日はリンゴを持ってきたのよ。この間ゴンガガまでヘリに乗せてもらったお礼よ」
スカーレットはリンゴを半分に分けると,半分をツォンに渡して,半分は自分が食べました。
実はツォンに渡した方のリンゴにはしびれ薬が入っていました。
ツォンがなかなか食べないのでスカーレットは,
「遠慮しないで食べなさいよ!」
と,無理矢理ツォンの口にリンゴを突っ込みました。
リンゴを口に突っ込まれたツォンは倒れてしまいました。
「キャハハハハ,やったわ!」
倒れたツォンを見てスカーレットは大喜びで大満足で出て行きました。
 
その後しばらくして,ルードとイリーナが任務から帰ってきました。
「ツォンさん!」
倒れているツォンを見て,2人は慌てました。
とりあえず医者を呼びます。
そこへレノが帰ってきました。
「ツォンさん,昼寝?」
レノの言葉を聞いてルードとイリーナがきっとレノの顔を睨みました。
「誰かに襲撃を受けたらしい」
ルードが言うと,レノの顔色がさっと変わりました。
「おいっ,しっかりしてくれよ,ツォンさん」
レノはツォンの体を抱き起こして大きく揺らしました。
小柄なツォンの体は人形みたいにガクガク揺れました。
ルードはレノを止めました。
「こら,レノ,動かすんじゃない」
そのとき,大きく振られるツォンの口から何かがぽん,と飛び出て床の上に落ちました。
すると,
「痛い!痛い!」
突然ツォンの声がしたのでレノは慌ててツォンを見ました。
「あっ,ツォンさん!」
ツォンはレノに体を押さえつけられて痛がっていました。
一同はほっと胸をなでおろしましたが,ルードはツォンの口から落ちたそれを拾い上げました。
「…リンゴだ。ツォンさんはリンゴを喉につめて窒息していたんだ」
 
翌日,兵器開発部のところにレノがやって来ました。
あいにくスカーレットは不在で秘書が取り次ぎました。
「先日,部長さんからツォンさんがリンゴをもらったんだぞ,と。それでお礼の品物をツォンさんに届けるように言われたんだぞ,と」
何も知らない秘書はレノからお礼の品を受け取りました。
「わざわざすみません」
「気にするな。それじゃあ部長さんによろしくな,と」
 
レノが帰ってしばらくたってからご機嫌のスカーレットが出勤してきました。
「部長,おはようございます。さっきタークスのレノさんからリンゴのお礼にって品物が来たんですけど」
「レノからリンゴのお礼ですって…?」
スカーレットは聞き返しました。
「開けてみましょうか?」
秘書が箱を開封しようとしました。
スカーレットが思い出して,
「ちょっと待って。開けるんじゃないよ!」
スカーレットが秘書を止めようとしましたが,すでに包装紙を開けて蓋をあけてしまっていました。
ボーン!!
「このおバカー!」
              <劇終>
 
 
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